ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)では、将来のフリー・キャッシュ・フローを現在価値に割り引いて株価算定を行いますが、対象会社の事業計画に基づく試算が可能な部分と困難な部分に分けられます。後者のいわゆるターミナルバリューは、どうやって計算するのでしょうか。
ターミナルバリューの定義、計算式
ターミナルバリュー―とは、企業が継続する前提で、事業計画の最終年度以降に生じるフリー・キャッシュ・フローを現在価値で割り引いた額の総合計値です。永続価値、残存価値、継続価値、という場合もあります。ターミナルバリューは、以下のとおり計算します。
ターミナルバリューを計算する必要がある理由
対象会社が事業計画を作成する場合は、将来の予測期間の範囲で作成しています。この予測期間は一概に何年といえるものではありませんが、3年、5年、7年、10年など、会社によって異なります。
ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)で対象会社の事業価値を計算するには、対象会社が予測可能な範囲内だけでは不十分であり、最終予測年度以降の部分も考慮することが必要です。
従って、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)では、下記の通り、対象会社のターミナルバリューを計算して現在価値に割引計算することが必要です。
ただし、永続的な将来について完全な予測を行うのは不可能なため、一定の仮定に基づいた計算を行います。
ターミナルバリューの計算に必要な要素
ターミナルバリューは、フリー・キャッシュ・フロー、割引率、永久成長率を用いて計算します。それぞれ、下記の通りです。
フリー・キャッシュ・フロー
フリー・キャッシュ・フローとは、企業が事業活動を通じて得た資金のうち、自由に使える額です。
資本コスト
ここでいう資本コストは、割引率を意味します。割引率とは、将来のキャッシュ・フローを現在価値に割り引くときに用いる数値です。DCF法では一般的にWACC(加重平均資本コスト)を利用します。以下のとおり計算します。
永久成長率
永久成長率とは、最終予測年度のフリー・キャッシュ・フローが一定の成長率で永続するという仮定に基づいた、毎年の成長率です。
一般的には、対象会社の業績、所属する業界、所在地の経済成長率、所在地のインフレ率などを考慮して決定します。実務上、将来の不確実性が高く成長率を見込むことが困難な場合や、最終予測年度のフリー・キャッシュ・フローが継続すると仮定される場合は、永久成長率をゼロとする場合もあります。
ターミナルバリューの留意点
ターミナルバリューは、フリー・キャッシュ・フロー、割引率、永久成長率を用いた仮定計算です。また、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)の計算の性質上、一般的には、予測期間のフリー・キャッシュ・フローよりターミナルバリューのほうが企業価値に占める割合が大きくなります。よって、計算過程や基礎数値を含め、客観性、信憑性に留意することが必要です。
ターミナルバリューは、対象会社が予測可能な範囲だけではなく最終予測年度以降の部分も考慮する点で論理的といえます。
しかし、ターミナルバリューは、そもそも、対象会社が事業計画を作成してキャッシュ・フローの見積計算を行うことが困難な部分の価値を算定するものであり、仮定計算によらざるをえません。
まとめ
ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)におけるターミナルバリューの計算についてご紹介いたしました。
ターミナルバリューは、対象会社の企業価値に占めるウェイトが大きくなる傾向があるのですが、仮定計算によるものである、ということには留意すべきです。
ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)は株価算定の方法としてよく利用されますが、複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたらご相談ください。