M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。弊社がこれまでに裁判目的や同族間での株式譲渡取引などの株価算定の業務を受嘱し、株価算定書を作成・提出した中から事例をご紹介いたします。守秘義務等の関係で、固有名詞を伏せて要旨を簡潔に記載しますが、ご了承ください。
株価算定の業務の依頼の背景
対象の会社はオーナー系の事業会社、年商は数億円、幾分か営業利益が出ており、純資産は数千万円、配当は出ていません。
株価算定の依頼者は、この会社で長らく勤務されて役員まで就任し、会社の発行する株式の総数900株のうち3分の1に相当する300株を保有していました(額面50,000円)。
依頼者は高齢になり、役員を退任し、オーナー社長に対して自分の持っていた株式を買い取ってもらうよう相談したところ、依頼者ご自身が想定していたよりもかなり安い金額の提示を受け、違和感を覚えました。
提示を受けた金額の根拠は税理士が出した配当還元法による評価額によるものでしたが、1株当たり500円と、額面を大幅に下回っていました。
いくらなんでもそんな金額では納得できない、と依頼者からオーナー社長へ申しましたが、両者の交渉が難航して弁護士に相談されました。
業務の受嘱の検討
私は上記の概略を弁護士から聞き、弁護士から依頼者のご紹介を受けました。
今回の案件では、配当還元法に基づく評価を用いることはどうなのか、と考えました。そもそも配当還元法というのは一般的には相続や贈与の時に用いられる国税庁の定めた評価方法であり、今回のような第三者間での株式の譲渡取引において、対象会社のキャッシュフローや純資産の状況を考慮せずに配当還元法だけで算定した結果を用いることは妥当ではないと考えられるのではないか、ということです。
対象会社は、今後も事業活動を継続してキャッシュフローを獲得していくことが見込まれること、そして、重要な含み損益を考慮した時価純資産での実態価値を考慮して評価すべきと考えられます。
依頼者と同じような違和感を持ちましたので、公正な株式の価値を評価する株価算定の業務として受任しました。
なお、対象会社の資産に占める不動産の割合が大きかったので、対象会社の保有する土地と建物については不動産鑑定士に評価を依頼されました。
採択した評価方法と株価評価の結論
対象会社は数千万円の簿価純資産があり、重要な含み損益を考慮した実態価値を勘案した、時価純資産法が最も合理的と考えられる。
対象会社の将来のキャッシュフロー予測を考慮すべきという点で、ディスカウント・キャッシュ・フロー法にも合理性がある。
相続税及び贈与税の算出を目的とした国税庁の定める財産評価基本通達に基づいた配当還元法を用いることには合理性が乏しい。
評価方法としては、過去の裁判例や傾向を勘案し、時価純資産法を基本としながらディスカウント・キャッシュ・フロー法を補完的に折り込むこととして、両者7対3でウエイト付けした折衷法による算定を行うことが合理的と考えました。
株価評価の結論としては、時価純資産法では1株当たり約90,000円、ディスカウント キャッシュフロー法では1株当たり約23,000円~約44,000円、折衷法による最終結果では1株当たり約70,000円~約75,000円と評価しました。
まとめ
株価算定における適切な評価方法は、案件ごとに異なるものですし、一概には言えないものですが、今回の案件のように、相続税及び贈与税を算出する局面ではないところで、また、配当を出していない会社が配当還元法で株価算定を行った結果、違和感を覚えるくらい割安になる場合があります。
今回の案件では、当初相手側からは配当還元法に基づき1株当たり500円と提示されていましたが、弊社は対象会社の純資産やキャッシュフローなど実態価値を考慮した折衷法で1株当たり約70,000円~約75,000円という株価算定書を提出しました。
株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。