株価算定の案件によっては、対象会社の株式保有割合や支配権の有無を考慮したり、対象会社の株式の流動性を考慮することによって、プレミアムを付加したりディスカウントで減額する場合があります。以下では、株価算定におけるプレミアムやディスカウントについてご説明いたします。
株価算定におけるプレミアム、ディスカウント
株価算定の案件の状況によって、下記のように、支配権を行使できるコントロール・プレミアム、支配権が無いことによるマイノリティ・ディスカウント、株式の流通性が低いことによる非流動性ディスカウントを考慮して調整する場合があります。
コントロール・プレミアム
コントロール・プレミアムとは、会社の支配権を取得することに着眼した評価額の増額です。買収プレミアムという場合もあります。
会社の議決権の過半数の株式を取得する場合は、一般の少数株主が株式を取得する場合と異なり、支配権を取得することになります。この支配権に相当する部分を考慮して評価額を調整するのが、コントロール・プレミアムの考え方です。
案件によるので一概には言えませんが、算定された評価額に20~30%を付加する場合があります。
マイノリティ・ディスカウント
マイノリティ・ディスカウントとは、会社の支配権が無い少数株主であることに着眼した評価額の減額です。コントロール・プレミアムとは表裏の関係となります。
支配権を保有しない少数株主としての取引の場合は、支配権に相当する部分を減額して評価額を調整するということが、マイノリティ・ディスカウントの考え方です。
案件によるので一概には言えませんが、算定された評価額から20~30%を減額する場合があります。
非流動性ディスカウント
非流動性ディスカウントとは、対象会社が非上場で流動性が低いことに着眼した評価額の減額です。
上場会社の株式は証券市場で取引できるので流動性がありますが、非上場会社の株式はこうした市場がないので上場会社に比べて流動性が低くなります。非上場会社の株式は上場会社の株式ほど容易に換金ができず、買い手を探して売買取引を成立させるためにコストが生じます。こうした流動性が低いことによるコストを考慮して評価額を調整することが、非流動性ディスカウントの考え方です。
案件によるので一概には言えませんが、算定された評価額から20~30%を減額する場合があります。
株価算定におけるプレミアム、ディスカウントと3つの評価アプローチとの関係
株価算定の方法として、日本公認会計士協会が公表する経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」では、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの3つの手法を示しています。これら3つのアプローチと上記のプレミアム、ディスカウントには以下のような関係があります。
株価算定におけるプレミアム、ディスカウントとインカム・アプローチとの関係
インカム・アプローチは、評価対象会社から期待される利益、ないしキャッシュ・フローに基づいて価値を評価する手法です。インカム・アプローチの代表的な手法であるディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)では、評価対象会社が将来獲得する見込みのキャッシュ・フローに基づいて企業価値を算定します。
ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)には支配権の有る株主の意思が反映されているため、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)で評価した企業価値には、コントロール・プレミアムが含まれていると考えられます。
対象会社の過半数を取得して支配権を獲得する場合でディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)を用いれば、評価した企業価値にはコントロール・プレミアムは含まれていると考えられます。しかし、対象会社の過半数未満を取得する少数株主の場合でディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)を用いるならば、マイノリティ・ディスカウントによる調整が検討されることもあります。
なお、インカム・アプローチの中でも配当還元法は対象会社からは配当を得ることだけを目的とした少数株主が適合します。よって、配当還元法で評価した企業価値にはコントロール・プレミアムが含まれていないと考えられます。
対象会社が非上場会社の場合の非流動性ディスカウントによる調整については、市場での取引価格と比較する要素が無い場合にはインカム・アプローチで非流動性ディスカウントを適用することは難しいですが、市場性が無いことを理由に減価するのが妥当な場合にはインカム・アプローチで非流動性ディスカウントの適用が検討される場合もあります
株価算定におけるプレミアム、ディスカウントとマーケット・アプローチとの関係
マーケット・アプローチは、上場している同業他社や類似取引事例など、類似する会社、事業、ないし取引事例と比較することによって価値を評価する手法です。
マーケット・アプローチは、第三者間や市場で取引されている株式との相対的な評価アプローチであり、一般の投資家が市場で売買する株価を用いるため、マーケット・アプローチで評価した企業価値にはマイノリティ・ディスカウントで調整されていると考えられます。
対象会社の過半数未満を保有する少数株主の場合でマーケット・アプローチを用いれば、評価した企業価値にはマイノリティ・ディスカウントでの減額が調整されていると考えられます。しかし、対象会社の過半数を取得して支配権を取得する場合でマーケット・アプローチを用いるならば、コントロール・プレミアムの付加が検討されることもあります。
対象会社が非上場会社の場合は、非流動性ディスカウントによる調整が検討されることもあります。
株価算定におけるプレミアム、ディスカウントとネットアセット・アプローチとの関係
ネットアセット・アプローチは、株式の評価を前提とした場合、主として会社の貸借対照表上の純資産に注目して価値を評価する手法です。
ネットアセット・アプローチによる株式評価では、再調達価格や清算価格を基にした帳簿上の純資産を基礎とした評価アプローチであり、再調達や清算できるのは支配権を持った株主となります。よって、ネットアセット・アプローチで評価した企業価値には、コントロール・プレミアムが含まれていると考えられます。
対象会社が非上場会社の場合の非流動性ディスカウントによる調整については、対象会社の資産の処分可能性までを考慮して時価評価されている場合には、ネットアセット・アプローチで非流動性ディスカウントを適用することは難しいと考えられます。
まとめ
今回は、株価算定におけるプレミアムやディスカウントについてご説明しました。概略や考え方をご紹介しましたが、実務において、どのような場合にどのようなプレミアムやディスカウントを適用するのかについて規則等で定められているわけではありません。そもそもの株価算定は案件ごとに異なるので一概に言えるものではなく、案件の状況によって慎重に検討することが必要です。
M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたらご相談ください。