株価算定には、どのような限界があるのでしょうか。以下でご説明します。
株価算定の限界に関する背景
株価算定とは、会社の株式の価値を算定することです。会社の株式の価値は、会社が上場していたら証券市場で取引される株価になりますが、会社が上場しておらず証券市場で取引されていなければ客観的な株価がありません。よって、上場していない会社の株式の価値を算定するために、株価算定が行われます。ただし、株価算定は、対象会社の価値を保証するために、客観的な証拠資料で裏付けをとることを目的としているわけではありません。
また、株価算定は単に数字を計算式に入れて機械的な計算をすればできるわけではありません。株価算定では、案件ごとに、適切な評価方法を選択するためにどうすればよいのか、なぜその評価方法を選択するのか、について説明することが必要です。実際のところ、株価算定は簡単にできるようなものではなく、専門知識、ノウハウが必要です。
なお、株価算定の過程では、多くの場合、何らかの前提条件や仮説を設定して評価額を計算します。上場会社のような客観的な株価が無い状態で、非上場会社の将来を予測して仮定計算で評価額を計算する場合があります。
このように、株価算定の目的が保証ではないこと、株価算定には高い専門性が必要されること、また、多くの場合では何らかの仮定に基づいた計算によることから、株価算定には下記のような限界があります。
株価算定の限界 1 株価算定の目的との関係
株価算定は、専門家として検討した結果としての対象会社の評価額と評価手法及びその評価手法を採択した理由を示すものです。
株価算定は会社の株式の価値を算定することなのですが、評価した対象の会社の評価額が正しいことを立証するために、事実の裏付けとなる情報や資料などの証拠を集めることを目的としているわけではありません。株価算定の目的は対象会社の絶対的な価値を示すことではなく、また、対象会社の株式の価値を保証することでもありません。
株価算定の過程では、対象会社の経営の実態を把握するために、対象会社についての様々な情報や資料を入手します。こうして入手した情報や資料については、インタビューや決算書その他の関連資料の査閲を通じた吟味検討は行いますし、重大な矛盾や不整合が無いかどうかは確認しますが、入手した情報や資料が真実かどうかを確かめることを目的とした手続きをとることは株価算定の本来の目的とは性質が異なります。
こうした株価算定の目的との関係での限界に対処するには、専門家の提示する株価算定書で責任の限定について記載し、株価算定の依頼者と受嘱者の双方が理解することが重要です。
株価算定の限界 2 株価算定には高い専門性が必要となる点
株価算定は、機械的な計算によって唯一の回答を出すというものではありません。
株価算定には、インカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの3つの評価アプローチがあり、更にこれらのアプローチには複数の評価方法があります。評価方法の例としては、インカム・アプローチのディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)、マーケット・アプローチの類似上場会社法(マルチプル法)、ネットアセット・アプローチの時価純資産法などがあります。
株価算定の背景や必要とされる理由の他、評価対象会社の経営環境や特性を考慮し、様々な評価方法の一般的な特徴を勘案したうえで、複数の評価方法のうち適切な評価方法を選定します。
株価算定の案件ごとに、複数の評価方法から適切な評価方法を選択したうえで、なぜその評価方法を選択したのか合理性について説明することが必要ですから、複雑で専門性が高く、実際のところは容易にできるわけではありません。
こうした株価算定の専門性に関する限界に対処するには、株価算定の専門性やノウハウの有る公認会計士・税理士の資格保有者へ株価算定を依頼すべきです。
株価算定の限界 3 株価算定では仮定計算が用いられる点
株価算定では、対象会社の将来の事業計画、キャッシュ・フロー、利益など、将来の予測を含めて対象会社の経営実態を考慮して評価額を算定します。将来を予測すること自体が不確実なものであり、数値で表すとなれば、何らかの前提条件を置いた仮定計算によらざるをえません。
例えば、株価算定のいくつかある手法のうち、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)では、対象会社の将来の事業計画に基づいて将来のキャッシュ・フローを見積もり、割引率を用いて現在価値に引き直しますので、計算の基礎的な部分が仮定計算となります。
こうした仮定計算の限界に対処するためには、合理的で妥当な事業計画や割引率を利用するように留意すべきです。
株価算定の限界に関連する留意事項
上述のような株価算定の限界をふまえ、下記のような留意事項があります。
株価算定の限界に関連する留意事項 1 評価額と実績値との差異
株価算定の多くが仮定計算によるため、計算の前提条件が事実と異なる場合には、株価算定の評価額と実績値との間で差異が生じます。
例えば、株価算定を行った時点で対象会社が作成した事業計画の売上や利益の見込み数値が、実績値との間で差異が生じる場合はあります。結果的に、株価算定の評価額と実績値との間に差異が生じることになります。
株価算定の限界に関連する留意事項 2 評価額のレンジ
株価算定の案件によっては、対象会社の将来を予測して売上や利益の見込み数値を仮定計算する際に、複数のシナリオが想定される場合や将来の数値に一定の幅を想定することが妥当な場合があります。こうした場合、対象会社の評価額として、単一の評価額で示すよりは、〇〇円~〇〇円といったレンジのある評価額で示されることになります、
株価算定の限界と、株価算定書との関係
一般的な株価算定書では、株価算定の限界をふまえ、株価算定の業務受嘱の前提及び責任の限定として、下記のような事項を記載します。
・株価算定は、対象会社の絶対的な価値を示す業務ではない旨
・株価算定は、対象会社の信頼性を保証する業務ではない旨
・株価算定で利用した資料の正当性を評価するための手続きを実施するわけではない旨
・株価算定で設定した前提条件や仮定に変化が生じて結論が異なる可能性がある旨
・株価算定の業務の受嘱者が、依頼者及び評価対象会社と利害関係が無い旨
株価算定書のひな型 記載する項目と例
まとめ
株価算定にはどのような限界があるのか、背景を含めたご説明でした。
株価算定が対象会社の絶対的な価値を保証することを目的としているわけではないこと、複雑で専門性が高いこと、多くの場合が仮定計算によること、などが相まっています。
株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。