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株価算定事例 実質債務超過の企業の評価

M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。弊社がこれまでに裁判目的や同族間での株式譲渡取引などの株価算定の業務を受嘱し、株価算定書を作成・提出した中から事例をご紹介いたします。守秘義務等の関係で、固有名詞を伏せて要旨を簡潔に記載しますが、ご了承ください。

株価算定の業務の依頼の背景

対象の会社は非上場の卸売業であり、評価時点から約3年前に民事再生を適用し、評価時点では経営再建の過程にあります。

対象会社のオーナー経営者側が経営権を他社へ譲ることを検討していたところ、株式譲渡又は増資で対象会社の引き受けることを検討していた譲受者から、公正な株式の価値を算定してほしいということで、株価算定のご依頼を受けました。

対象会社の経営状況

対象会社の近年の業績としては、売上は概ね10億円前後で、経常利益及び当期純利益は50~70百万円です。対象会社は経営再建の過程にあって業績の見通しに不確実な部分があることは否めませんが、近年は順調に推移しています。

民事再生債務を削減した後は、順次、債務の残額の返済を進めていますが、直近時点では約5億円が残っています。税務上の繰越欠損金は、過去には最大11億円ありましたが、債務の削減や利益の計上によって直近時点では約3億円まで減少しています。

なお、対象会社には回収が困難な多額の売掛金がある他に、従業員の退職金の多額の支給予定額があるのですが、貸借対照表には反映されておりません。対象会社の財務状態の実態を示すためには、回収が困難な売掛金については評価を減額し、従業員の退職金の引当計上不足分を負債と認識すべきと考えます。簿価純資産と時価純資産には相当の乖離が生じている状態といえます。

採択した評価方法と株価評価の結論

対象会社は民事再生を適用した後の再建過程にあり、今後の中長期的な経営の見通しには不確実な部分があるとはいえ、債務の削減や近年の安定した業績からみれば、今後の短期間である程度のキャッシュ・フローの獲得を見込むことは妥当です。よって、インカム・アプローチのうち、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)で評価することは合理的と考えました。

また、対象会社の実態を把握するためには貸借対照表上の純資産を考慮すべきであり、特に、回収が困難な売掛金の評価の減額や従業員の退職金の引当不足額を調整し、ネットアセット・アプローチの時価純資産法で評価することは合理的と考えました。

なお、対象会社と、事業内容、企業規模、収益の状況等から類似した上場会社は無く、また、近年において対象会社の株式譲渡の取引事例もありません。よって、マーケット・アプローチを採用することは合理的ではありません。

以上をふまえ、本件の対象会社では、インカム・アプローチのディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)とネットアセット・アプローチの時価純資産法を折衷して株価算定を行うべきと考えました。

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)と時価純資産法による評価と評価の結論

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)による評価

単年度キャッシュ・フローは、直近3年の税引後利益と減価償却費と設備投資の状況を勘案すれば、50~70百万円と見込まれます。

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)による対象会社の企業価値は、永続価値は無しとして、今後3年先までとすれば、約100百万円から約200百万円と算定しました。

時価純資産法による評価

対象会社の決算書の査閲、オーナー社長へのインタビュー、提出を受けた資料の査閲を行った結果、直近の簿価純資産162百万円から、下記の事項を調整して時価純資産を算定しました。

・対象会社の破綻懸念債権と破綻先債権併せて貸倒引当金の計上不足76百万円を設定することを考慮します。

・対象会社の受取手形と売掛金のうち回収に懸念が生じている部分について貸倒引当金の計上不足26百万円を設定することを考慮します。

・従業員の退職金の期末要支給額として退職給付引当金の計上不足86百万円を設定することを考慮します。

・この他、賞与引当金の計上不足3百万円、土地の含み損5百万円を設定することを考慮します。

以上より、対象会社の時価純資産は、簿価純資産162百万円から約193百万円を減額した約30百万円の債務超過と算定しました。

折衷法による評価の結論

ディスカウント キャッシュ・フロー法(DCF法)による評価額では約100百万円から約200百万円、時価純資産法による評価額では約30百万円の債務超過となります。

本件の定性的な状況として、対象会社は実質債務超過の状態であり、今後短期間で解消できる可能性は高いのですが、民事再生の適用で取引先からの債務を削減しながら経営再建中の状態にあり、中長期的な経営の見通しを立てることは困難です。

単に、ディスカウント キャッシュ・フロー法(DCF法)による評価額が、時価純資産法による評価額を大きく上回ることを理由として、既存株主による過去の払込額を上回る評価額となることは妥当ではなく、出資時点での払込額である額面金額を超えた金額とするのは過大な評価と考えました。また、対象会社が実質債務超過であることを理由に備忘価格で評価することも妥当ではないと考えました。

以上より、対象会社の企業価値は、資本金相当の8百万円と算定しました。

対象会社の一株当たり評価額は、上記の企業価値を会社の発行済株式総数16,000株で除した、500円と算定しました。

まとめ

今回の案件では、実質債務超過の企業の株価算定の事例をご紹介しました。本件の場合は、実質債務超過であっても短期間で解消できる可能性が高いのですが、民事再生の適用を受けて再建過程にあるという定性的な部分を考慮し、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)と時価純資産を折衷し、最終的には額面金額で評価することが合理的という結論に至っています。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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