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【株価算定事例】 経営状態が安定しているが重要な含み損益もある企業の評価

M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。弊社がこれまでに裁判目的や同族間での株式譲渡取引などの株価算定の業務を受嘱し、株価算定書を作成・提出した中から事例をご紹介いたします。守秘義務等の関係で、固有名詞を伏せて要旨を簡潔に記載しますが、ご了承ください。

株価算定の業務の依頼の背景

対象の会社は、塗装業の非上場の会社であり、主要な顧客及びユーザーは自動車関連の業界です。

今後は世界的な電気自動車へのシフトなど事業環境の変化が起こることが想定される中にあっても、塗装業界の市場は安定して継続することが見込まれています。

こうした中で、高齢のオーナー社長がM&Aで株式を譲渡することを決意され、譲受先が譲渡価額を決定するための参考として、公正な株式の価値を算定してほしいということで、株価算定のご依頼を受けました。

対象会社の経営状況

対象会社は、昭和初期の創業以来、塗料・防水・塗装用品販売を中心に事業を展開してきました。近年の業績としては、売上は概ね10億円前後で、経常利益は10~20百万円で推移しています。現状では安定した経営環境にあるといえますが、電気自動車へのシフトが進んで日本国内での塗料の需要が減少すれば、中長期的には売上高がある程度減少することを想定すべきと考えられます。

なお、対象会社には、役員及び従業員の退職金の多額の支給予定額があるのですが、貸借対照表には反映されておりません。この他、会員権の含み損、回収が困難な売上債権など、簿価純資産と時価純資産には相当の乖離が生じている状態です。

採択した評価方法と株価評価の結論

対象会社の中長期的な将来の経営環境には不確実な部分があることは否定できませんが、これまでのある程度安定した業績をふまえて将来のキャッシュ・フロー予測を勘案した株価評価を行うという点では、インカム・アプローチのうち、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)で評価することは合理的と考えました。

また、対象会社の実態を把握するためには貸借対照表上の純資産を考慮すべきであり、退職金の引当不足額、会員権の含み損、回収が困難な債権の評価の減額を調整し、ネットアセット・アプローチの時価純資産法で評価することは合理的と考えました。

なお、対象会社と、事業内容、企業規模、収益の状況等から類似した上場会社は無く、また、近年において対象会社の株式譲渡の取引事例もありません。よって、マーケット・アプローチを採用することは合理的ではありません。

以上をふまえ、今回の対象会社の場合は、インカム・アプローチのディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)とネットアセット・アプローチの時価純資産法を折衷して株価算定を行うのが合理的と考えました。

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)と時価純資産法による評価と評価の結論

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)による評価

対象会社の今後の税引後利益、減価償却費、設備投資、運転資本の見通しに基づき、1年後から5年後のフリー・キャッシュ・フローの合計額を73百万円と算定しました。6年後以降の単年度フリー・キャッシュ・フローを4.7百万円から7百万円と算定しました。

割引率は、負債コストと株主資本コストの加重平均資本コストとして算定しました。負債コストは、対象会社の年間支払利息、金融機関からの借入金残高、実効税率より、0.74%と算定しました。株主資本コストは、10年国債の利回りの直近三年平均値0.113%、業務内容が近似した上場会社のβ値の平均値0.96、TOPIXの利回りに基づくリスクプレミアム5.697%、小規模リスクプレミアム4%を用いて、9.47%と算定しました。加重平均資本コストは、業務内容が近似した上場会社の自己資本比率の平均値に基づいた負債比率と株主資本比率によって、6.1%と算定しました。

事業価値のうち、今後5年間のフリー・キャッシュ・フローの割引現在価値は、1年後から5年後の各年のフリー・キャッシュ・フローと割引率に基づき59百万円と算定しました。事業価値のうち、永続価値の割引現在価値は、6年後以降の単年度フリー・キャッシュ・フロー、企業成長率、割引率に基づき78百万円~115百万円と算定しました。

非事業用資産等は現金預金、有価証券の合計383百万円、有利子負債は金融機関からの借入金338百万円と算定し、対象会社の株主価値は、183百万円~220百万円と算定しました。

時価純資産法による評価

対象会社の決算書の査閲、オーナー社長へのインタビュー、提出を受けた資料の査閲を行った結果、直近の簿価純資産214百万円から、下記の事項を調整して時価純資産を算定しました。

・対象会社の役員及び従業員の退職金の支給見込額相当50百万円を、退職給付引当金として設定することを考慮します。

・対象会社の会員権につき時価の下落による51百万円の含み損を考慮します。

・対象会社の売上債権53百万円は全額回収不能と見込まれるため、同額の貸倒引当金を設定することを考慮します。

この他の含み損益を考慮し、対象会社の時価純資産は、簿価純資産214百万円から約57百万円を減額した約157百万円と算定しました。

折衷法による評価の結論

ディスカウント キャッシュ・フロー法(DCF法)による評価額では約183百万円から約220百万円、時価純資産法による評価額では約157百万円となり、両者の評価法のウェイト付けを同等として、対象会社の評価額を約170~約188百万円と算定しました。

対象会社の一株当たり評価額は、上記の企業価値を会社の発行済株式総数300,000株で除した、567~629円と算定しました。

まとめ

今回の案件では、経営状態が安定しているが、重要な含み損益もある企業の株価算定の事例をご紹介しました。経営状態を考慮するにあたっては今後のキャッシュ・フロー獲得分を考慮したディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)が合理的であり、また、資産の評価減や負債の計上を織り込んだ時価純資産で評価することも合理的なため、折衷法で株価算定を行いました。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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