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第一審、第二審の結果が異なった株価算定の裁判例(旧R社案件)

株式算定をめぐる裁判例にも、裁判所の決定または命令などに対して不服を申し立てる抗告が行われるケースがあります。今回は、株価算定が争点となった数多くの裁判例の中から、二度の抗告が行われ、第一審と第二審で異なる結論が出た旧R社案件についてご紹介します。

旧R社案件の概略

旧R社は、フランチャイズの飲食店、コンビニエンスストア、スーパーマーケットを経営する会社を支配・管理する上場会社でした。

旧R社は平成18年8月21日に業績予想の下方修正を発表。株価は発表当日@304,000円から、翌日@254,000円に、更に9月26日には@144,000円まで下落しました。

平成18年11月10日、A社は旧R社の株式を@230,000円でTOBによる公開買付を行うことを発表し、平成18年12月12日にTOBが成立。A社は旧R社の約92%の株式を保有するに至りました。A社は、実質的には旧R社の経営陣が支配する会社であり、経営陣がMBOで旧R社の株式を取得することを目的としたものです。

平成19年3月28日の旧R社の株主総会では、他の株主の同意なしに残りの約8%の株式を買い取れる「全部取得条項付種類株式」を利用して、少数の株主から@230,000円を基準として旧R社が買い取る旨が承認され、平成19年4月29日をもって旧R社は上場廃止となりました。

しかし、平成19年4月5日に、旧R社の少数の株式を保有する株主が買取価格@230,000円が不当と主張し、裁判所に買取価格の決定を求めました。買取価格について、申立人1は@500,000を下回らないものと主張し、申立人2は@280,000円が相当と主張しています。

その後、平成19年12月19日の第一審では、東京地裁は、買取価格はTOBの価格と同額の@230,000円と決定しましたが、申立人は抗告を行いました。

続く、平成20年9月12日の第二審では、東京高裁は、買取価格は直近6カ月の終値の平均値@280,805円にプレミアム20%を加算した@336,966円と決定し、第一審と異なる結論となりました。

さらに、これを受けて旧R社側は抗告を行いました。

平成21年5月29日、最高裁は会社側の抗告を棄却し、第二審の東京高裁の決定で確定しました。

旧R社案件における、申立人の主張について

旧R社の少数の株式を保有する株主は、旧R社側が公表した買取価格@230,000に対し、下記のような疑念を抱きました。

・明確な証拠は無いが、平成18年春ごろに旧R社としてはMBOを進めることが内定しており、以降の経営陣は株価を維持しようとしなかったのではないか。

・MBOで旧R社の株式を安く買うために、業績予想の下方修正で株価を意図的に下げたのではないか。

申立人1は、業績予想の下方修正を発表した平成18年8月21日より前の終値の1年間平均にプレミアム30%を加算し、買取価格は@500,000円を下回らないと主張しました。

申立人2は、公開買付を発表した平成18年11月10日より前の1年間の平均株価@403,000円又は平成18年11月10日より前の半年の平均株価@280,000円が相当と主張しました。

旧R社案件における、第一審の東京地裁の決定について

旧R社案件における第一審の東京地裁の決定の概要は、下記の通りです。

・平成18年8月21日の業績の下方修正は、企業会計上の裁量の範囲内での会計処理であり、旧R社の企業価値を投資家に知らせるための重要な情報の提供である。

・買取価格は、旧R社の株式の客観的価値に、今後の株価上昇への期待価値をプレミアムとして加算することが妥当である。

・客観的価値については、平成18年11月10日の公開買付の公表日以降の株価を考慮することは妥当ではなく、公開買付の公表日の前日から一定期間の株価の平均値とすべきである。客観的価値は株価形成に影響を与える情報が同質になる期間を対象とすべきであり、平成18年10月10日から平成18年11月9日までの株価の終値の平均値である@202,000円とする。

・期待価値については、公開買付価格を尊重して公開買付価格と市場価格との乖離率を期待価値とし、@28,000円以下とする。

・第一審の東京地裁の決定は、客観的価値と期待価値を併せた@230,000円とする。

旧R社案件における、第二審の東京高裁の決定について

旧R社案件における第二審の東京高裁の決定の概要は、下記の通りです。

・平成18年8月21日の業績の下方修正は、金融商品取引法や金融証券取引所の規則に基づいた企業価値の評価に及ぼす影響を迅速に開示したものではあるが、MBOの条件を旧R社の経営陣に有利にする目的は含まれている。

・買取価格は、旧R社の株式の客観的価値に、今後の株価上昇への期待価値をプレミアムとして加算することが妥当であり、この点は第一審の東京地裁と同様である。

・客観的価値については、平成18年11月10日の公開買付の公表日以降の株価を考慮することは妥当ではなく、公開買付の公表日の前日から一定期間の株価の平均値とすべきである。業績下方修正の公表はMBOを想定した株価の下方への誘導を意図した面が否定できないため、客観的ではこうした影響を排除すべきであり、平成18年5月10日から平成18年11月9日までの6カ月間の株価の終値の平均値である@280,500円とする。

・期待価値については、近い時期にMBOを行った他社事例を参考にして客観的価値の20%を期待価値とし、@56,161とする。

・第二審の東京高裁の決定は、客観的価値と期待価値を併せた@336,966円とする。

まとめ

会社の株式、企業価値が争点となった裁判例として、旧R社案件についてご紹介しました。

申立人も第一審の東京地裁も第二審の東京高裁も、買取価格は株式の客観的価値に今後の株価上昇への期待価値をプレミアムとして加算するという考え方は同様でした。第二審の東京高裁では、業績下方修正の公表はMBOを想定した株価の下方への誘導を意図した面が否定できないというところが考慮され、第一審の東京地裁との間で株価の平均値を算定する起算日に違いが生じています。

抗告となれば弁護においても、さまざまな情報収集が必要となり、手間も増大します。株価算定は複雑で専門性が高いものです。裁判に発展する株式算定に不安がある場合や、疑問点などがございましたら実績のある弊社までご相談ください。

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