M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。弊社がこれまでに裁判目的や同族間での株式譲渡取引などの株価算定の業務を受嘱し、株価算定書を作成・提出した中から事例をご紹介いたします。守秘義務等の関係で、固有名詞を伏せて要旨を簡潔に記載しますが、ご了承ください。
株価算定の業務の依頼の背景
対象の会社は役員と従業員併せても10人に少し満たない規模ですが、特殊な洗浄の工法に強みを持つ製造業であり、近年の売上高は1~2億円、利益ベースでは黒字計上、総資産及び総負債は共に1~2億円です。過去に業績が不調だった頃の影響で数年前までは債務超過の状態でしたが、近年の黒字基調によって直近の決算書では簿価純資産が微少ですがプラスに転じています。
M&Aで対象会社の株式を譲り受けることを検討しており、対象会社の価額の目安を提示してほしいということで、株価算定のご依頼を受けました。
譲り受ける法人側は、対象会社の過去の実績、最近の業況、取引先に着目されています。
採択した評価方法と株価評価の結論
対象会社の将来の業績予測に不確実性が伴うこと自体は否定できませんが、独自の工法を強みにして今後も事業を展開していくことに着眼しており、今後の業績見通しに基づいた将来のキャッシュフロー予測を考慮し、インカム・アプローチのうち、ディスカウント・キャッシュ・フロー法で評価することが合理的であると考えました。
ただし、対象会社が策定する事業計画によれば、売上高が次第に1.2~1.3倍ずつ増加していくことを前提にしています。当該計画の実現可能性には留意することが必要であり、事業計画の補正が合理的と考えました。
直近の決算書によれば、対象会社の簿価純資産は僅少です。また、純資産は、簿価ベースと時価ベースとでは特に重要な差異が生じておりません。対象会社の純資産が金額的な面で重要性が低いことを考慮して、ネットアセット・アプローチは採択しませんでした。
なお、マーケット・アプローチでは事業や企業規模の面で類似した上場会社の株価を用いた対象会社の評価を行うことが困難なため、採択しませんでした。
以上より、対象会社の事業計画を補正して、ディスカウント・キャッシュ・フロー法で株価評価を行うことが合理的と考えました。
ディスカウント・キャッシュ・フロー法による評価
対象会社が策定する事業計画では、今後において売上高が増加していることを前提としていますが、慎重に検討した結果、過去にこのような前例は無く、希望的な観測による部分が大きいことから、根拠が不十分と判断しました。直近3年の売上高の実績の平均値を今後の各年の売上高として、事業計画を補正しました。
今後5年の対象会社の単年度のフリー・キャッシュ・フローは4~6百万円、割引現在価値合計は約25百万円と算定しました。
永続価値については、単年度のキャッシュフロー約5百万円、企業成長率0~1%、割引率は加重平均資本コスト約6%より、90~110百万円と算定しました。
なお、対象会社は重要な非事業用資産はありませんが、金融機関からの借入金が約76百万円です。
以上より、ディスカウント・キャッシュ・フロー法による評価としては、今後5年間のフリー・キャッシュ・フローの現在価値、永続価値の現在価値、有利子負債を考慮し、38~57百万円としました。
まとめ
今回の案件では、ディスカウント・キャッシュ・フロー法による評価で38~57百万円という結論になりました。当初、対象会社が策定していた事業計画の数値をそのまま使ってディスカウント・キャッシュ・フロー法の評価額を算出したら、もっと大きくなっていたはずです。やはり、株価算定をするうえでは事業計画は慎重に吟味し、状況によっては補正の検討が必要です。
株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。