今回は、いくつかある株価算定の評価法のうち、時価純資産法についてご説明いたします。時価純資産は、どのような評価方法で、どのような場合に利用されるのでしょうか。
時価純資産法とは
株価算定の方法はインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの3つに分けられ、時価純資産法はネットアセット・アプローチに分類される評価法です。時価純資産法とは、対象会社の貸借対照表の資産と負債を時価で評価して純資産額を算出し、時価純資産の額を企業価値とする方法です。含み損益のある資産と負債を時価に評価替えすることで、実態の時価純資産で評価します。
簿価純資産法と時価純資産法の違い
ネットアセット・アプローチには簿価純資産法と時価純資産法があり、簿価純資産法とは、対象会社の会計帳簿上の純資産額を企業価値とする方法です。
時価純資産法では含み損益のある資産と負債を時価に評価替えしますが、簿価純資産法では帳簿上の純資産そのものが評価額になります。
簿価純資産法を時価純資産法と比較すれば、評価替えを行わないため計算が簡便になる分、含み損益を反映せずに対象会社の実態の純資産と乖離した評価になる場合がある点に留意が必要です。
時価純資産法による評価額の計算方法
時価純資産法では、帳簿上の純資産に資産と負債の含み損益を加減算して評価額を計算します。簡易な例を以下に示します。
含み損益の加減算の例示
・売掛金・受取手形について、不良債権など回収に懸念が生じている債権がある場合、回収が不能と見込まれる部分の減額を検討します。
・棚卸資産について、長期間保有している在庫、今後の販売見込みが困難な在庫、赤字での販売が見込まれる在庫がある場合、在庫の評価減を検討します。
・土地・建物について、帳簿価額と時価に差異が生じている場合、加算又は減算する含み損益を検討します。
・従業員及び役員の退職金について、支給予定額が貸借対照表に引当金として計上されていない場合、積立不足分相当の減額を検討します。
評価額の計算の例示
仮に、対象会社の帳簿上の資産が500、負債が300、純資産が200とします。この他、在庫の評価減(-)10、土地の含み益(+)50、役員退職金の引当不足(-)20があるとします。
この場合の評価額は、簿価純資産法なら200、時価純資産法なら220となります。
時価純資産法の特徴
時価純資産法のメリットとデメリットをふまえ、時価純資産法がどのような局面で利用されるのかについて、以下に示します。
時価純資産法のメリット
・時価に評価替えして企業価値を算定するため、対象会社の実態を反映した評価を行なうことができます。
・他の評価法では、専門知識や大量のデータを必要とすることがありますが、時価純資産法は比較的簡便に評価額を計算できます。
時価純資産法のデメリット
・評価時点での純資産に基づいた評価を行なうため、対象会社の将来の成長や収益獲得の見込みを反映した評価を行なうことが困難です。
・対象会社のブランド力、ノウハウ、人材、ネットワークなど、帳簿上に計上されない無形資産を反映した評価を行なうことが困難です。
時価純資産法が利用される局面
・時価純資産法は、評価時点において、対象企業が保有するすべての資産を売却してすべての負債を支払うことを仮定した、清算価値を示す評価法です。時価純資産法では、今後の事業の継続を前提としていないため、成熟期から衰退期の評価には向いていますが、創業期の評価には向いていません。
・時価純資産法は、過去の剰余金の蓄積である純資産に基づいた評価法ですので、社歴の長い企業の評価に向いています。
まとめ
時価純資産法は、対象会社の資産と負債の実態を反映した評価を行なうことができますが、対象企業の将来性や無形資産を反映した評価を行なうことが困難です。そもそも株価算定は案件ごとに異なるものですから一概に言えるものではありませんが、時価純資産法の特徴をふまえ、他の評価法との併用や折衷による株価算定を考慮することも必要です。
M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたらご相談ください。