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【株価算定事例】少数の株式の保有者から株式を買い取る場合の評価額の検討

M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。弊社がこれまでに裁判目的や同族間での株式譲渡取引などの株価算定の業務を受嘱し、株価算定書を作成・提出した中から事例をご紹介いたします。守秘義務等の関係で、固有名詞を伏せて要旨を簡潔に記載しますが、ご了承ください。

株価算定の業務の依頼の背景

対象の会社は、主として、水道用の資材や土木建材の販売を行う商社です。業歴は約80年、事業拠点としては支店や営業所として日本国内に展開しています。

一定の商圏を保持しており、近年の業績は安定していますが、評価時点では燃料費や原材料費の高騰を影響で仕入価格が上昇する傾向にあります。

対象会社の株主は、約95%を保有する親会社と、残り約5%を保有する親会社とは同業の事業会社の2件です。対象会社の事業運営は親会社が主導で進めており、少数の株式の保有者側は実際のところは経営に関与しておらずほぼ影響を与えていないという状況です。株主2件同士の協議によって、対象会社の親会社が少数の株式の保有者から株式を買い取って100%保有の形にする方向で話がまとまりました。

対象会社の親会社が株式を買い取る際の譲渡価額を決定するための参考として、公正な株式の価値を算定してほしいということで、株価算定のご依頼を受けました。

対象会社の経営状況

対象会社の近年の業績としては、売上は概ね200億円、営業利益及び経常利益は1億円から5億円で推移しています。直近年度では、燃料費や原料価格の呼応等の影響を受けて仕入価格が上昇する中、顧客への販売価格に転嫁することができた結果、売上高は247億円、営業利益及び経常利益は4億円強と、増収増益となりました。ただし、株価算定の検討時点において、直近が好業績であったとしても世界的なインフレや景気悪化の進行で市況が低迷することは充分想定されました。対象会社の将来の収益獲得や成長性を含めた明確な事業計画の立案が難しく、好業績が継続すると見込むことは難しいと考えられます。

対象会社の直近の決算書によれば、資産は約155億円(手元現金預金約20億円、売上債権約55億円、棚卸資産約3億円、土地及び建物約6億円、子会社株式約4億円など)、負債は約131億円(仕入債務約116億円、借入金約6億円など)、簿価純資産は約24億円です。

なお、この対象会社の決算書には、対象会社が保有する不動産の含み損益、子会社株式の含み損益が含まれておらず、簿価純資産と時価純資産には相当の乖離があります。

採択した評価方法と株価評価の結論

対象会社の今後当面の経営環境や市況変化を把握しづらく、将来の収益獲得や成長性を含めた明確な事業計画の立案が難しい状況にあります。また、仮に、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)等の手法で資本コストや割引率を算定するならば将来の予測の局面で不確実性が伴います。よって、インカム・アプローチのうち、ディスカウント・キャッシュ・フロー法で評価することは合理的ではないと考えました。

また、対象会社と、事業内容、企業規模、収益の状況等から類似した上場会社は無く、また、近年において対象会社の株式譲渡の取引事例もありません。よって、同業大社や類似取引事例と比較して価値を評価するようなマーケット・アプローチを採用することは合理的ではないいと考えました。

今回の対象会社には、保有する不動産、対象会社の子会社株式に重要な含み損益が生じています。対象会社の純資産の実態を勘案して評価する点で、簿価純資産と時価純資産の乖離を考慮し、ネットアセット・アプローチのうち、時価純資産法を採択すべきと考えました。

時価純資産法による評価と評価の結論

対象会社の直近年度の貸借対照表によれば、簿価純資産は約24億円です。今回の株価算定にあたり、決算書をはじめとして提示を受けた資料の査閲、対象会社の経営官営面の担当者へのインタビューを行った結果、下記の事項を認識しました。

・対象会社が保有する土地及び建物の帳簿価額と時価の差額を検討した結果、土地は約50百万円の含み損、建物は約20百万円の含み損がある。

・対象会社の子会社2社のうち、H社については約470百万円の含み益、N社については重要な含み損益は無い。

・対象会社の売上債権や棚卸資産には評価を切り下げるほどの重要な含み損は無い。

・対象会社の役員及び従業員に対する退職給付相当の重要な引当不足は無い。

・対象会社の工事損失引当金の重要な引当不足は無い。

簿価純資産約24億円から、これらの重要な含み損益を合計した約4億円を加算し、時価純資産は約28億円と算定しました。

対象会社の評価の結論としては、時価純資産法に基づく28億円です。

対象会社の親会社側が少数の株式の保有者から株式を買い取る際の金額の目安は、対象会社の評価額に約5%を乗じた1億4千万円と算定しました。

まとめ

今回の案件では、時価純資産法による株価算定の事例をご紹介しました。本件の場合は、不動産の含み損益や子会社株式の含み損益を考慮した時価純資産法が最も合理的という結論になりました。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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