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裁判目的の株価算定の想定事項、留意事項

弁護士、法律事務所が、裁判を意識しながらも、非上場会社の株価算定を必要とする案件に関与される場合の想定事項、留意事項、具体的な対処について、以下でご説明します。

裁判目的の株価算定の想定事項

裁判を意識しつつ、非上場会社の株価算定を専門家へ依頼することが必要な案件について、主に下記のような事項は想定しておくべきと考えられます。

非上場会社の株価算定は専門性が高いということ

非上場会社の株価算定は、単純で機械的な計算をするわけではありません。何通りかある非上場会社の株価算定の手法の中から、対象の案件について最適な手法を選択します。株価算定の案件ごとに、株価算定が必要とされる背景や目的の他に、評価対象会社の経営状況を総合的に検討したうえで、最適な株価算定の手法を選択します。また、選択した株価算定の手法が最適と判断した論理を整理することが必要です。

非上場会社の株価算定の何通りかある手法の概略、特徴、どのような場合に選択すべきか、といったことについて一定の理解が必要です。また、個々の案件の状況を総合的に検討するにあたっては、解釈、判断過程、計算過程で複雑な場合もあります。

よって、非上場会社の株価算定は、誰でも容易にできるようなものではなく、専門性やノウハウが必要です。

株価算定書は様々な立場の方が査閲し、意見や批判を受ける場合があるということ

非上場会社の株価算定を依頼した専門家からは、株価算定書を入手することになります。株価算定書には、評価対象会社の株価や評価額の結論だけではなく、対象会社の概要、選択した評価手法と選択した理由、計算過程が記載されます。この文書は、裁判を意識するならば、依頼者と依頼者側の弁護人だけではなく、相手側、相手側の弁護人、裁判所側の査閲の対象となります。裁判所側は、会社法に照らした裁判上の公正な価格を検討します。

株価算定書は、依頼する当事者自身が主張する非上場会社の株価の論理と結論を記載した文書ですが、様々な立場の方が査閲し、意見や批判を受ける場合があります。

株価算定書を作成した専門家と連携して取り組むこと

裁判の案件では、弁護人となる弁護士、法律事務所が中心となって進めることになり、株価算定を作成した専門家との間で意思疎通を図りながら取り組んでいくことになります。株価算定書を作成した専門家が、どのような考えに基づいて、どの手法を選択し、結論に至ったのか、共有することによって、首尾一貫した主張が可能となります。

裁判目的の株価算定の留意事項

裁判を意識しつつ、非上場会社の株価算定を専門家へ依頼することが必要な案件について、主に下記のような事項は想定しておくべきと考えられます。

株価算定の専門性、ノウハウを持った公認会計士・税理士への株価算定の依頼

既に記載のとおり、株価算定には専門性が必要であり、株価算定の専門知識やノウハウを持ったところに依頼すべきです。

現状、株価算定の業務について資格制度は導入されておらず、株価算定を業務として請ける側には資格は必須の要件となっていません。しかし、一般的には株価算定の担当者の資質や信頼性が問われることが多く、特に裁判に発展する可能性のある案件ならばなおさら意識すべきと考えられます。

一般的には、公認会計士に株価算定を依頼すれば、日本公認会計士協会から公表されている経営研究調査会研究報告第32号「企業価値評価ガイドライン」をふまえて対象会社の経営の実態を総合的に評価します。一方で、税理士に株価算定を依頼すれば、評価対象会社の経営の実態を考慮した評価ではなく、財産評価基本通達に沿った相続税・贈与税の申告を目的とした評価になってしまう場合があります。

株価算定を依頼した後に、例えば、株価算定書が裁判に通用しない等で思わぬ失敗から損害を被るようなことを避けるためには、公認会計士と税理士の資格保有者に依頼すべきと考えられます。

選択した株価算定の手法について、案件の背景や目的、対象会社の経営状況との整合性

非上場会社の株価算定は、複数の評価手法があるうちから、その案件の背景や株価算定の目的、対象会社の経営状況を総合的に検討して、最適な手法を選択するものです。

株価算定書を査閲して、選択した株価算定の評価手法が、その案件の背景や目的、対象会社の経営状況からみて整合しているかどうか確かめることが必要です。仮に、整合していないならば、評価手法として選択した理由も含めて矛盾が生じる場合がありますし、違和感のある評価額が計算される場合もありえます。

例えば、第三者間で株式を売買するにあたり、相続税・贈与税の申告を目的としているわけでもないのに財産評価基本通達に沿った株価算定をすれば、評価手法の選択の理由について矛盾が生じること、対象会社の経営の実態からみて違和感のある評価額が計算されることがありえます。第三者間で株式を売買するならば、本来は、対象会社の経営状態や、純資産や利益といった財務数値を考慮したうえで、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)や時価純資産法や配当還元方式(ゴードン・モデル)の選択が検討されるべきと考えられます。

選択した株価算定の手法は、裁判で通用する手法かどうか

非上場会社の株価を論点とする過去の判例では、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)、時価純資産法、配当還元方式(ゴードン・モデル)は、多くの事例があります。こうした過去の判例で認められているような評価手法を選択するのであれば、普通は、選択した評価手法が裁判で通用しないということは考えにくいものです。しかし、過去の判例で前例がない評価手法を選択することで、裁判で通用しなくなる可能性を高めてしまうことは良くないので、極力回避すべきです。

想定事項、留意事項をふまえた具体的な対処について

非上場会社の株価算定を専門家に依頼するにあたって想定しておくべき事項、留意すべき事項をふまえ、具体的には下記のように対処すべきと考えられます。

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)と時価純資産法と配当還元方式(ゴードン・モデル)の概略のご理解

非上場会社の株価算定には何通りか評価手法がありますが、このうち、過去の裁判の判例で多くの事例があり、裁判に限らず一般的な実務でも周知されているのは、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)と時価純資産法と配当還元方式(ゴードン・モデル)の3つの評価手法です。

株価算定はそもそも個々の案件による部分が大きいので一概には言えませんが、会社の経営実態を考慮した株価算定書を作成するなら、これらの評価手法のいずれか、または、これらの評価手法を折衷した手法による場合が多いです。

これらの評価手法の詳細なところはありますが、大きく見れば、対象会社が今後獲得するキャッシュ・フローの見込みに着眼した手法がディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)、対象会社の資産と負債と含み損益の状況に着眼した手法が時価純資産法、株主が企業から受け取る配当に着眼した手法が配当還元方式(ゴードン・モデル)です。

株価算定を担当する専門家への事前相談による方向性のご確認

株価算定を専門家に依頼する時点で、極力、事前相談をご利用ください。

株価算定を専門家へ依頼することを検討する際、事前に株価算定で選択される評価手法とその結論の評価額の方向性を可能な限り把握することは、特に裁判を想定された案件であるほど、依頼者としても依頼者側の弁護人としても有用です。

株価算定の事前相談として弊社の代表へお問合せいただき、株価算定を必要とする理由や案件の背景、対象会社の経営状況などをお聞かせいただければ、可能な範囲でご説明いたします。

まとめ

弁護士、法律事務所が、裁判を意識しながらも、非上場会社の株価算定を必要とする案件に関与される場合について、想定すべき事項、留意すべき事項、具体的な対処についてのご説明でした。

想定すべき事項は、非上場会社の株価算定は専門性が高いこと、裁判となれば様々な角度で株価算定書が査閲されること、株価算定の担当者と連携をとって取り組むことです。

留意すべき事項は、専門性とノウハウを持った公認会計士・税理士へ依頼すべきこと、選択した株価算定の評価手法と案件の状況との整合性、選択した株価算定の評価手法が裁判で通用する手法かどうか、です。

具体的な対処としては、多くの事例があるディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)と時価純資産法の概略の理解、株価算定の担当者への事前相談による方向性の確認、です。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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