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【株価算定事例】 業歴が長く剰余金が蓄積された事業会社の評価額の検討

M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。弊社がこれまでに裁判目的や同族間での株式譲渡取引などの株価算定の業務を受嘱し、株価算定書を作成・提出した中から事例をご紹介いたします。守秘義務等の関係で、固有名詞を伏せて要旨を簡潔に記載しますが、ご了承ください。

株価算定の業務の依頼の背景

対象の会社は業歴約70年の製造業で、本社の近隣の製造業や食品加工業の事業会社を得意先とした一定の商圏を保持し、業績は比較的安定しています。創業者の2代目にあたる長男と次男が中心に経営してきましたが、経営陣と従業員の高齢化、設備や建屋の老朽化が進んできており、次世代への製造技術の継承や設備の更新投資が課題となっていました。

M&Aでこの対象会社の株式を譲り受ける検討が進められ、譲り受け側の事業会社から、対象会社の価額の目安を提示してほしいということで、株価算定のご依頼を受けました。

対象会社の経営状況

対象会社の近年の業績としては、売上は6億円、営業利益及び経常利益は数千万円で推移しています。今後もある程度安定した売上が見込まれそうですし、譲り受けた事業会社が中心の体制となってから新規開拓の検討余地はあるかもしれませんが、経営陣が交代しても今の得意先との取引がこれまでのように継続できるかどうかが明確ではありません。

対象会社の直近の決算書によれば、資産は約750百万円(手元現金預金約200百万円の他、売上債権、棚卸資産、土地及び建物など)、負債は約180百万円(主として買掛金及び支払手形)、簿価純資産は約570百万円で、実質無借金です。

なお、この対象会社の決算書には、保有する土地の含み損、不良資産、役員及び従業員への退職給付引当金が含まれておらず、簿価純資産と時価純資産には相当の乖離があります。

採択した評価方法と株価評価の結論

対象会社の業績が今後も同程度で継続することはある程度は見込まれますが、経営陣が交代することによる得意先の継続に不確実な部分があり、事業を継続するために必要な建屋及び機械設備の投資資金を見積もることが容易ではないことから、インカム・アプローチのうち、ディスカウント・キャッシュ・フロー法で評価することは合理的ではないと考えました。

また、対象会社の信用力や事業の規模からみて、類似した公開会社は見当たらず、マーケット・アプローチを採用することは合理的ではないいと考えました。

今回のM&Aでは、譲渡側としては先代の創業者の時代から長きに渡って積み重ねてきた過去の実績と剰余金の蓄積に重きを置いており、譲受側としてもこうした業歴や実績を評価しているため、純資産に着目した評価を行うことが合理的と考えました。ただし、簿価純資産と時価純資産の乖離を考慮すべきであり、ネットアセット・アプローチのうち、時価純資産法を採択すべきと考えました。

時価純資産法による評価と評価の結論

対象会社の財務面を検討した結果、下記のような重要な含み損益を認識しました。

・対象会社が保有する土地について、約20百万円の含み損がある。

・対象会社の売上債権や棚卸資産には評価を切り下げるほどの重要な含み損は無いが、営業外での取引から起因する回収が困難な約60百万円の債権がある。

・対象会社の従業員に対する退職給付引当金として、約20百万円が不足している。

・対象会社の役員の退職金の引当金として、約150百万円が計上されていない。

簿価純資産約570百万円から、これらの重要な含み損を合計した約250百万円を控除し、時価純資産は約320百万円と算定しました。

対象会社の評価の結論としては、時価純資産法に基づく320百万円です。

まとめ

今回の案件では、時価純資産法による株価算定の事例をご紹介しました。本件の場合は、業歴が長く、信頼と実績があり、過去からの剰余金の蓄積が大きいことから、時価純資産法が最も合理的という結論になりました。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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