M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定や事業価値算定が行われることがあります。弊社がこれまでに裁判目的や同族間での株式譲渡取引などの株価算定や事業価値算定の業務を受嘱し、株価算定書や事業価値算定書を作成・提出した中から事例をご紹介いたします。守秘義務等の関係で、固有名詞を伏せて要旨を簡潔に記載しますが、ご了承ください。
事業譲渡の価値算定の業務の依頼の背景
父がオーナー社長として経営する運送業の事業会社から、長男がオーナー社長として経営する運送業の事業会社に対し、運送事業の一部の取引先を移管し、この業務に必要なトラックの他にドライバーを含めた従業員も移管しています。
譲り受けた側のオーナー社長から、事業譲渡の価値を算定してほしいという依頼を受けました。
事業譲渡に関する検討
事業譲渡の価値算定のご依頼とはいうものの、書面による両社間の事業譲渡契約が無く、譲渡対象、譲渡範囲、譲渡基準時点、条件などが明確に示されているわけではありません。しかし、まずは実態として事業譲渡が行われているのかどうか、行われているのであれば譲渡した事業の範囲はどうか、を検討する必要があります。
書面での事業譲渡契約書こそありませんが、両社の売上明細及び従業員リストを査閲し、経営者に質問した結果によれば、実態として運送事業が譲渡されていると考えました。
移管したトラックについては価格査定に基づいて対価が授受されており、既に資産の譲渡取引として完結しています。しかし、移管された運送事業の商権については対価が精算されていません。本件で依頼を受ける事業譲渡の範囲は、移管された運送事業の商権と考えました。
業務の受嘱の検討
実態として運送事業の事業譲渡は行われており、移管された運送事業の商権の事業としての価値を評価するという認識で依頼者と合意に至り、受嘱しました。
採択した評価方法
譲渡会社側と譲受会社側の両社がともに最重視するのは、移管した運送事業が今後生み出す収益やキャッシュ・フローです。将来の収益獲得を評価結果に反映させる手法としては、インカム・アプローチのうち、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)が最も合理的と考えました。
本件では、同業他社や類似した取引事例と比較して評価するようなマーケットアプローチは合理的ではありません。
また、本件の譲渡の対象範囲は運送事業の商権であり、資産や純資産に着目しているわけではないのでネットアセット・アプローチは合理的ではありません。
ディスカウント・キャッシュ・フロー法による評価と評価の結論
譲渡した運送事業の商権は、今後ある程度継続することは見込まれます。しかし、ドライバーの確保を含めた業界の事業環境の先行き見通しには不確実な部分があり、中長期に亘る予測が困難です。本件では、今後のフリー・キャッシュ・フローの予測期間を、3年から5年までとしました。
直近3年の決算の数値によれば、今回譲渡した事業は、年間売上高約4億円、年間営業利益約30百万円、年間税引後営業利益約20百万円で推移しています。この傾向が今後しばらく継続すると見込まれるため、単年度のフリー・キャッシュ・フローは20百万円としました。
割引率は、負債の調達コストとして借入金の金利水準の3%を用いました。
事業価値評価の結論としては、約60百万円から約90百万円と評価しました。
まとめ
今回の案件では、事業価値を評価しました。一般的な株価算定では会社そのものを評価するので評価の対象範囲についてあまり意識する必要が無いことが多いのですが、今回の事業価値算定では評価の対象範囲を明確にするところにポイントがあったと考えます。
株価算定、事業価値算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。