非上場会社の株価算定では、複数の手法が用いられるケースが多くあります。それぞれに考え方が異なる手法を組み合わせるにあたり、どのような要素を考慮すればよいのでしょうか。今回は、株価算定が争点となった裁判例の中から、旧SE社案件についてご紹介します。
旧SE社案件の概略
旧SE社は洋装雑貨の販売等を中心に営んでいる昭和47年に設立された非上場会社です。会社の経営は順調で利益は拡大し、純資産は増加し、株主に対する配当を出していました。
旧SE社の株主Aは、保有する9%相当の株式を第三者へ譲渡することについて旧SE社へ承認を請求しましたが、旧SE社は承認せずに旧SE社の下請け企業の代表者を買受人として指定しました。
売主は旧SE社の純資産価額方式及び類似会社比準方式を採用すべきと主張し、旧SE社側は配当還元方式を採用した@657円を主張しましたが、双方の協議では調整に至りませんでした。
旧商法204条ノ4に基づく価格決定の申立てを受け、平成元年5月23日に東京高裁は、配当還元方式、純資産価額方式、収益還元方式を折衷し、@2,775円を売買価格と決定しました。
旧SE社案件における、裁判所の見解
・譲渡対象の9%相当では、旧SE社の経営を支配することや、経営に影響を及ぼすことができないことは明らかである。本件で株式を譲り受ける側の主目的は、旧SE社から配当金を得ることになるため、基本的には配当還元方式を採用するのが合理的である。
・配当還元方式の採用が合理的とはいえ、将来の1株当たりの配当額を的確に計算することは困難であり、過去の配当の実績に依存しいて計算したところで正確性は期待しがたい。これまでの旧SE社は、利益を内部留保に回して配当を低く抑える傾向があり、配当の方針は少数の支配株主の判断による部分は大きく、不確定な要素が高いと考えられる。よって、過去の配当に依存する配当還元方式だけでは不十分であり、純資産価額方式及び収益還元方式をも併用することが合理的である。
・そもそも株式譲渡の不承認や譲渡先の指定という会社法の規程は、会社側にとって不利益な株主を排除するために設けられたものであるが、この半面、株式を譲渡しようとする者にとっては自由に譲渡することが制限されてしまう。旧SE社の場合、会社の株式を譲渡する者に対しては、自由に譲渡する場合と比較して不利益を与えてしまうことは避けるべきと考えられる。
・以上を勘案すれば、配当還元方式を6、純資産価額方式を2、収益還元方式を2と併用するが相当である。
まとめ
会社の株式の価値が争点となった裁判例として、SE社案件についてご紹介しました。
この事案では、裁判所は、基本的には配当還元方式を採用することが相当としつつ、純資産価額方式と収益還元方式をも併用して評価額を算定しています。
株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。