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地裁では純資産価額方式、高裁ではDCF法と純資産価額方式の折衷となった裁判例(旧HP社案件)について(-2)

前回に続き、シリーズでお送りしております。株価算定が争点となった裁判例から、旧HP社案件を見てみましょう。前回は、案件の概略と、売り手側・買い手側それぞれの主張を紹介しました。今回は、旧HP案件について、裁判所の見解をお伝えします。

福岡地方裁判所の見解

・一般的な非上場会社の株価の算定方法として、①対象会社の将来の利益やキャッシュフローに着目したDCF法、収益還元法、配当還元法、②類似した企業や取引事例に着目した市場株価法、類似会社法、類似取引法、③対象会社の純資産に着目した簿価純資産法、時価純資産法、等がある。

・本件では、相対での取引での価格決定が争点となっており、配当を受領することを期待するだけではないので、買い手側にとっての価値を考慮する必要がある。本件の譲渡対象の株式は、対象会社の持分であって、会社の清算時の企業価値である純資産価額方式を考慮すべきと考えられる。

・対象会社は今後も事業活動を継続することが前提になるので、会社の清算時を想定した純資産価額方式を採用すること自体は必ずしも適切とは言い切れない面がある。しかし、買い手側としては持分の払い戻しを受けることになるので、会社の持分を反映した純資産価額方式を考慮して評価することは合理的である。

・仮に、対象会社から株主に対する配当の実績に基づいた配当還元方式で評価すれば、会社の利益や純資産で評価した企業価値に比べて著しく低い評価になってしまうので、配当還元方式を単独で採用することは合理的ではない。

・売り手側はDCF法のみを基礎とした評価額を算定している。DCF法は、将来の事業収支計画の予測に基づいて一定の割引率で現在価値を割引計算する方法であり、通常は事業収支計画の予測や割引率の決定が困難な場合が多く、本件ではDCF法だけで対象会社の株価を算定するのは妥当ではない。対象会社の介護事業という特殊性や事業規模などからみても、今後5年間の事業収支計画の予測や割引率の決定には正確性が欠けてしまう。

・対象会社と類似した会社や事業、取引事例があれば考慮すべきだが、本件で比較対象となる企業は見当たらず、市場株価法、類似会社法、類似取引法を採用することは合理的ではない。

・本件では、譲渡承認請求の時の対象会社の背景の諸事情や経営状況を考慮しつつ、基本的には純資産価額法で評価するのが相当である。対象会社の介護事業という特殊性や事業規模を踏まえ、平成17年3月期の純資産価額法に基づく1株当たり評価額@100,025円、平成18年3月期の純資産価額法に基づく1株当たり評価額@50,450円の中位である@75,000円と決定する。

福岡高裁の見解

・売り手側のAは、福岡地方裁判所の決定した対象会社の株価@75,000円を不服として抗告し、国税庁方式による類似業種比準価額方式の@902,100円が適切であると主張している。国税庁の評価方式はあくまでも相続税法上の評価に過ぎず、類似業種とはいってもサービス業やその他のサービス業といった概括的な株価に過ぎないので対象会社の介護事業が反映されているとは認められない。

・過去に対象会社の株式を1株@50,000円で取引した実績は存在していること、将来の正確な予測ができないからということでDCF法を全く排除して評価するのではなく、DCF法による評価も考慮すべきと考えられることから、純資産価額方式だけで評価するのは合理的ではない。DCF法3:純資産価額方式7とウェイトを付けて評価する。DCF法による評価1株当たり@226,845円の0.3、純資産価額方式による評価額1株当たり@50,450円の0.7で折衷した、@103,261円と決定する。

まとめ

会社の株式の価値が争点となった裁判例として、旧HP社案件についてご紹介しました。

この事案の背景として、対象会社の業績は、平成17年3月期に比べて平成18年3月期の業績が悪くなっていました。売り手側はDCF法で平成17年3月期の財務数値を用いた高い評価額を主張し、買い手側は純資産価額法で平成18年3月期の財務数値を用いた低い評価額を主張しました。地裁は純資産価額法で決定しましたが、その後の高裁ではDCF法を考慮してDCF法3:純資産価額方式7の折衷法で決定しました。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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