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地裁では純資産価額方式、高裁ではDCF法と純資産価額方式の折衷となった裁判例(旧HP社案件)について(-1)

会社の株式の価値の評価方法には多くの種類があります。株価算定を必要とする目的や背景が個々の状況によって異なりますし、評価対象会社の経営状態も異なります。会社の株式の価値を巡る多数の裁判例がある中から、今回は、旧HP社案件についてご紹介します。

旧HP社案件の概略

旧HP社は、平成10年に設立された訪問介護、通所介護等を目的とした非上場会社です。

旧HP社の発行済株式総数は200株であり、旧HP社の株式94株をS社から譲り受けたAは、旧HP社に対し、平成18年7月に株式譲渡の承認請求と承認しない場合の譲渡相手方の指定請求を行いました。

この請求を受けた旧HP社は、平成18年8月に株式譲渡を承認せず、また、買受人としてB社を指定しました。

こうした旧HP社の指定に基づき、買受人B社は平成18年8月にAに対して旧HP社の株式をB社が買い取る旨と、買取価格として@50,450円に94株を乗じた約474万円を法務局へ供託しました。

これに対し、Aは、平成18年8月に旧HP社の株券を法務局へ供託するとともに、売却価格は@2,473,000円に94株を乗じた約2億3246万円と主張しました。

旧HP社の株式の売買価格についてAとB社が協議しましたが合意に至らなかったため、平成18年8月にAは裁判所へ申し立てました。

旧HP社案件における、売り手側Aの主張

・B社は有価証券報告書を発行しており、この有価証券報告書の平成17年3月末時点の決算によれば、旧HP社の時価は約7200万円から4億3200万円のレンジにあり、中間値である2億5200万円を旧HP社の時価での評価額とみるのが妥当である。この評価額をB社の保有株式数102株で除した1株当たりの@2,473,000円が算定価格と考える。

・平成17年3月期決算に基づく旧HP社のDCF法による1株当たりの評価額は@1,617,590円となる。この金額に純資産価額法及び収益還元法で補正した結果、1株当たりの評価額@2,473,000円と算定する。

・平成18年3月末時点の決算は未確定であり、平成18年3月期の財務数値に基づく算定価格は妥当ではないと考えられる。

旧HP社案件における、買い手側B社の主張

・旧HP社のように非上場の閉鎖会社では、相続税の財産評価基本通達に準じた純資産価額法で評価することが妥当である。この場合、直近の決算期である平成18年3月期の決算書の財務数値を基礎とすべきであり、1株当たりの評価額は額面金額5万円をわずかに上回る@50,450円と算定される。

・売り手側Aは、平成17年3月期の決算書に基づいた評価額とすべきであり、平成18年3月期の決算書に基づいた評価額とすべきではないと主張するが、未確定の決算書であっても客観的に公正な決算書であれば基礎資料となりうる。また、旧HP社の直近の資産状態その他の事情を考慮した評価を行うためには平成18年3月期の決算書を利用すべきと考えられる。

・旧HP社の平成17年3月期の決算書に基づけば@98,420円、平成18年3月期の決算書に基づけば@50,450円となる。平成18年3月期は売上が大幅に減少して赤字の決算だったことは、評価額の算定においては考慮すべきである。

まとめ

会社の株式の価値が争点となった裁判例として、旧HP社案件についてご紹介しました。

この事案では、直近の平成18年3月期決算の財務数値には未確定な部分があるという点で、売り手側は平成17年3月期の財務数値を利用すべき、買い手側は平成18年3月期の財務数値を利用すべきと乖離しています。実際、平成18年3月期は業績が悪かったので、いずれの期の財務数値を利用するかで評価額には開きが生じます。

次回では、裁判所の見解についてご説明します。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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