M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。弊社がこれまでに裁判目的や同族間での株式譲渡取引などの株価算定の業務を受嘱し、株価算定書を作成・提出した中から事例をご紹介いたします。守秘義務等の関係で、固有名詞を伏せて要旨を簡潔に記載しますが、ご了承ください。
株価算定の業務の依頼の背景
対象の会社は不動産管理業の事業会社であり、金融機関等からの借入金をもとに不動産物件を保有して賃貸管理を行っています。
年商は約5千万円、総資産は約8億円、総負債は約7億円、純資産は約1億円、配当は出ていません。
対象会社の発行済株式総数の大半を保有するのは高齢の女性であり、役員には就任していませんが、自身の先行き不安などで対象会社の株式を第三者へ譲渡して換金することを検討したいということです。対象会社の公正な価値を算定してほしい、という依頼を受けました。
対象会社の経営状況
総資産約8億円の大半は不動産物件、総負債約7億円の大半は銀行等からの借入金です。
年間売上は約5千万円から変動することはなく、諸経費と借入金の利息を控除した毎期の経常利益は概ねトントンです。
保有する主な不動産物件は、評価時点の10~20年前に取得しており、含み損が出ています。
銀行からの借入金の返済は予定通り進められています。
経営状況について、今後、特に大きな動きはなさそうです。
業務の受嘱の検討
本件の場合、まず、対象会社が保有する不動産物件の資産価値の評価が重要なポイントになると認識しました。また、対象会社は、調達資金が多額な割に利益が少なく、投資効率が低くなっています。
株価算定の業務の受任にあたり、不動産価値の評価、投資効率といったところに留意しつつ、公正な株式の価値を評価することとしました。
採択した評価方法
対象会社の特徴として、投資効率や収益性が低く、今後の成長性も見込まれないことから、インカム・アプローチは合理的ではないと考えました。
対象会社と事業内容や規模等で類似した上場会社はなく、また、参考にできるような対象会社の過去の株式の取引事例価額もないため、マーケット・アプローチは合理的ではありません。
対象会社の保有する重要な事業用不動産の含み損益を検討し、時価純資産法を採択することが最も合理的と考えました。
時価純資産法による評価と評価の結論
対象会社が保有する不動産物件の内訳明細をみたところ、4つの物件の土地と建物の帳簿価額だけで対象会社の資産の大半を占めていることがわかりました。これらの物件の登記簿謄本をみたところ、いずれの物件も買った時期が評価時点の10~20年前でした。なお、これら主要な不動産物件の評価時点での市場価格は、いずれも買った時期から下落しており、多額の含み損を抱えています。不動産物件の他で、特に重要な含み損益はありません。
主要な不動産物件の含み損の金額を集計すると1億円を超えており、対象会社の時価純資産はマイナスになります。これは、評価時点での対象会社は、実質的に債務超過の状態にあるということを示しています。
株価評価の結論としては、時価純資産法では債務超過となり、対象会社の企業価値及び1株当たりの評価額は付かないと評価しました。
まとめ
今回の案件では、保有資産のウェイトが大きく、また、利益が低く投資効率が低いことを考慮して、時価純資産法で評価しました。実質債務超過で評価額は付かないという結論になりましたが、不動産の評価額は変動しますので、不動産の市況相場が違うときに評価すれば異なる結果が出るといえます。
株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。