ブログ

市場価格の基準となるタイミングは?株価算定の裁判例(旧NJ社案件)

上場会社が合併し、それに反対する株主が株式買取請求権を行使した場合、どの時点での市場価格を基準に株価算定をするべきなのでしょうか。今回は、株式の買取価格を巡る多数の裁判例の中から、旧NJ社案件についてご紹介します。

旧NJ社案件の概略

旧NJ社は家電量販店の上場会社であり、旧NJ社は、家電のインターネットショップを運営する上場会社の旧EJ社の株式の約53%を保有していました。

2008年5月15日に、旧NJ社は、子会社の旧EJ社を吸収合併することを取締役会で決議したことを公表しました。

この合併によって旧EJ社の株主には旧NJ社の株式が割り当てられることとなり、2008年7月21日で旧EJ社は上場廃止となり、2008年10月1日で合併の効力が生じました。

この合併に反対した旧NJ社の一部の株主は2008年9月26日に公正な価格での買い取りを請求しましたが、旧NJ社との間で協議が整わず、裁判所へ公正な価格の決定を申し立てました。申立人側は、合併の公表前の市場価格に基づき、@370円又は@329、325、330円が正当な価格と主張しましたが、旧NJ社側は、株式買取請求時点の市場価格@293円が正当な価格と主張しました。

2009年3月の横浜地裁では、公正な価格は株式買取請求時点の市場価格@293円と決定しました。この決定を不服とした申立人は抗告したのですが、2009年7月の東京高裁では抗告を棄却し、株式買取請求時点の市場価格@293円と決定しました。

旧NJ社案件における、申立人すなわち売り手側の株主の主張

・マーケット・アプローチに基づいて市場価格を基準として買取価格を定めるならば、合併をプレスリリースする前の2008年5月14日以前の市場価格を基準にすべきである。

・合併の概要を公表したことによって市場価格が受ける影響は排除すべきであり、合併の公表後の市場価格は合併が成立することを前提にして形成されてしまう。

・下記のいずれかの価格を採用しうると考える。

2008年5月14日の市場価格の終値@370円

2008年5月14日以前1ヵ月の市場価格の平均@329円

2008年5月14日以前3ヵ月の市場価格の平均@335円

2008年5月14日以前3ヵ月の市場価格の平均@330円

旧NJ社案件における、買い手側すなわち旧NJ社側の主張

・正当な価格は、申立人らが株式買取請求権を行使した時点での市場価格とすべきであり、2008年9月26日の終値@293円とするのが合理的である。

旧NJ社案件における、横浜地裁の見解

・買取請求までの間に生じた株価変動の原因は考慮すべきではある。しかし、合併の公表で市場価格が下落することを懸念するのであれば、下落するより前に買取請求を行う機会があったはずであり、あえて市場価格の動向を見守ったのであれば株価下落のリスクを承知しながらも株価上昇を期待した部分もあったのではないかと思われる。

・合併公表時点から買取請求時点までに株価は下落しているが、こうした株価の下落のリスクを回避することになるのは妥当ではない。

・株式買取請求権は、この権利を行使することによって法律関係が生じるものである。権利を行使する前の時点での市場価格を採用して株式買取請求権を行使するのは合理的ではない。

・公正な価格は、株式買取請求時点の市場価格@293円と決定する。

旧NJ社案件における、東京高裁の見解

・上場会社の買取請求権が行使された場合の買取価格としての公正な価格は、価格操作を目的とする不正のような特段の事情がない限り、市場価格を算定の基礎とすべきである。

・抗告を棄却し、公正な価格は、株式買取請求時点の市場価格@293円と決定する。

まとめ

会社の株式の価値が争点となった裁判例として、旧NJ社案件についてご紹介しました。

この事案では、横浜地裁も東京高裁も、買取請求権行使時点を算定基準としました。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

関連記事

  1. 複数手法を用いた株価算定の裁判例(旧FD社案件)
  2. 地裁では純資産価額方式、高裁ではDCF法と純資産価額方式の折衷と…
  3. 約650億円の損失を招いた株価算定の裁判例(旧TH社案件) その…
  4. 合理的な株価算定手法とは?株価算定の裁判例(旧FS社案件)
  5. 非上場会社の株価算定の裁判例(旧MS社案件)
  6. 合併に対する株式買い取り請求時の株価算定方法は?旧SS社の裁判例…
  7. 配当還元方式が採用された株価算定の裁判例(旧D社案件)
  8. 複数手法を併用する際の割合は?株価算定の裁判例(旧SG社案件)
PAGE TOP