ブログ

【株価算定事例】 少数の株式を保有する元役員が大株主へ株式を売却する時の評価

M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。弊社がこれまでに裁判目的や同族間での株式譲渡取引などの株価算定の業務を受嘱し、株価算定書を作成・提出した中から事例をご紹介いたします。守秘義務等の関係で、固有名詞を伏せて要旨を簡潔に記載しますが、ご了承ください。

株価算定の業務の依頼の背景

対象会社は製造業の事業会社、直近の年商は6~7億円、営業利益は1~3千万、純資産は5~6億円、配当は少額です。3~5年前の年商は7~8億円でしたが若干の減少傾向がみられます。

もともと対象会社は創業家のオーナー家が経営していましたが、外部環境が厳しくなり、業界再編の流れを受けて、約15年前に今の大株主である法人が資本参加しました。以降の対象会社の株式は、親会社が91%保有、旧オーナー家の当時の社長が9%保有となり、親会社が主導で経営が進められ、業績及び財務体質は安定してきました。

旧オーナー家の個人株主は、資本参加以降も引き続き対象会社の取締役には残っていましたが、高齢となり、親会社に対して取締役の退任と保有株式の買い取りを相談しました。

業務の受嘱の検討

私は上記の概略を親会社側から聞き、元役員の保有する株式の譲渡価額の算定の依頼を受けました。

今回の案件では、対象会社の経営基盤が今後も安定して継続していくことが見込まれますが、この見込は親会社が主導で経営することが前提となっています。

また、対象の会社の純資産は直近数年の決算書では5~6億円で推移していますが、過去に資本参加した時点では経営の状態に不安定な部分がありました。現在の経営基盤が安定して純資産が増加しているのは、親会社が主導で順調に経営を進めて剰余金が蓄積されているためです。

対象会社のこうした背景もふまえたうえで、公正な株式の価値を評価する株価算定の業務として受任しました。

採択した評価方法と株価評価の結論

今後の対象会社は、売上が若干減少する可能性があるものの、親会社が主導で経営することを前提とすれば、引き続き安定したキャッシュ・フローの獲得が見込まれます。対象会社の将来のキャッシュ・フロー予測を考慮した評価を行うという点では、ディスカウント・キャッシュ・フロー法には合理性があると考えました。

対象会社に類似した上場会社が無く、また、親会社が資本参加して以降の株式譲渡取引も無いことから、マーケット・アプローチを用いるには合理性が乏しいと考えました。

対象会社の持分を評価するという点で、時価純資産法には合理的な面があると考えられます。しかし、対象会社の経営基盤が安定しているのは、親会社が主導で経営を進めてきたためであって、旧オーナー家の個人株主は経営に影響を及ぼしていません。こうした実態からみれば、時価純資産法を用いるには合理性が乏しいと考えました。

本件では、ディスカウント・キャッシュ・フロー法で株価算定を進めることにしました。

ディスカウント・キャッシュ・フロー法による評価

今後の対象会社の業績見通し、加重平均資本コスト、対象会社が保有する非事業用資産に基づき、対象会社の株主価値の結論として、約173百万円~約248百万円と評価しました。親会社が少数株主から買い取る際の目安の価額は、この株主価値の9%相当の約16百万円~約22百万円と評価し、この評価額の中位である19百万円が妥当であろうと提示しました。

まとめ

今回の案件では、対象会社をディスカウント・キャッシュ・フロー法で評価した結果、直近の時価純資産から見て割安な価額とはなりました。経営状態が不安定なところで資本参加を受け、対象会社の経営基盤の安定に影響を及ぼしてきたのは親会社であり、少数株主ではありません。少数株主の保有する株式を親会社に買い取りを依頼するにあたり、こうした実態を考慮した公正な株式の価値を計算しました。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

関連記事

  1. 株価算定の方法 二項モデルによるストック・オプションの評価につい…
  2. DCF法による株価算定の裁判例(旧K社案件)
  3. エクセルを使ったディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)…
  4. 株価算定の方法 年買法(年倍法)について
  5. CaseStudyと書かれたイラスト 【株価算定事例】ベンチャー企業のディスカウント・キャッシュ・フロ…
  6. 株価算定の方法 ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)…
  7. ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)の…
  8. 株価算定と永久成長率との関係
PAGE TOP