非上場会社の企業価値を評価する際、複数の株価算定手法が併用されることがあります。しかし、複数の手法を用いる場合、評価に反映させる各方法の割合は、どのような点を考慮して決定されるのでしょうか。今回は、非上場会社の株価を巡る多数の裁判例の中から、旧SG社案件についてご紹介します。
旧SG社案件の概略
旧SG社は酸素ガスの製造を主たる目的とした非上場会社です。昭和4年に合資会社として設立されてから昭和34年に株式会社へ組織変更され、長期にわたり独占的な市場で高い利益率を維持してきました。会社の内部留保を蓄積しながらも、株主に対して利益の約12%を継続して安定的に配当を支払っています。
旧SG社の株主構成は、投資育成が約33%、代表者の同族関係者が実質約54%、株主Aが約6.5%となっており、株主Aは自身が保有する株式を第三者へ譲渡することについて旧SG社へ承認を請求しましたが、旧SG社は承認せずに自社を買受人として指定しました。
平成17年4月26日に札幌高裁は、配当方式と純資産方式と収益方式を、1対1対2の割合で評価価格に反映させた、@10,387円を売買価格と決定しました。
旧SG社案件における、裁判所の見解
・旧SG社の株式は過去10年間に売買されておらず、取引事例法は採用しない。投資育成会社の投資引受価格に基づいた価格は、一般的に客観化された評価方式とは認められないため採用しない。
・旧SG社と事業が類似した公開会社が無いので類似会社比準法は採用しない。
・類似業種比準法は国税庁が税金計算を目的とした政策的な算定方法であるため、採用しない。
・本件株式の売り手側としては、この株式の売買は投資回収の手段と考えられる。売り手側がこれまで受け取ってきた配当に関する利益配当請求権と、今後受け取ることが想定される残余財産配当請求権を、換金するという捉え方ができる。こうした売り手側からの最も合理的な評価方式は配当方式と純資産方式の併用であり、この2つの方式に差をつける合理的な理由が見出しにくいことから、この2つの方式の平均値とするのが相当である。
・本件株式の買い手側としては、会社の事業が今後も継続していくことを考えれば一時点での評価を前提とした純資産方式は合理的ではない。また、自己株式を取得するため配当を期待するものではないことから、配当方式は合理的ではない。今後も会社の事業が継続していくことを現す評価手法としては収益方式が理論的である。収益方式は、将来の不確実な収益に依拠して評価を行うため、旧SG社の過去の財務数値を慎重に検討して、買い手側の立場から収益方式を採用するのが相当である。
・売り手側と買い手側の双方が対等な立場である前提で旧SG社の株式を評価するならば、売り手側として相当な評価方式と買い手側として相当な評価方式を1対1で算定すべきと考えらる。併用方式によって、配当方式:純資産方式:収益方式を、0.25:0.25:0.5として算定することが合理的である。
まとめ
会社の株式の価値が争点となった裁判例として、旧SG社案件についてご紹介しました。
この事案では、裁判所は、配当方式と純資産方式と収益方式を、1対1対2の割合で評価額を算定しています。
株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。