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複数手法を用いた株価算定の裁判例(旧FD社案件)

株価算定には多くの手法がありますが、複数手法が採用されるケースも多くあります。では、合理的な判断を行うために、どのような手法を組み合わせればよいのでしょうか? 今回は、純資産価額方式と収益還元方式を併用するのが妥当とされた裁判例として、旧FD社案件についてご紹介します。

旧FD社案件の概略

旧FD社は昭和44年に不動産の賃貸及び管理等を目的として設立された非上場会社です。株主構成は、Aが30%、Bが60%、Cが10%となっており、会社の経営は順調で年間約100万円の利益を計上しています。なお、株主に対する配当は実施しておらず、従業員は雇用しておりません。旧FD社の資産の大半は借地権と借地上の建物で占められています。

旧FD社の株主Aは、保有する30%相当の株式をZへ譲渡することについて旧FD社へ承認を請求しましたが、旧FD社は承認せずBを買受人として指定しました。この指定により、Bは90%を保有することになります。

旧商法204条ノ4に基づく価格決定の申立てを受け、昭和63年12月12日に東京高裁は、純資産価額方式と収益還元方式を併用し、非上場で市場性が無く譲渡制限が付されていることを考慮して3割を控除した金額@60,372円を売買価格と決定しました。

旧FD社案件における、株主Aの主張

純資産価額方式によって公正な価格を決定すべきである。

・旧FD社はストック型の不動産業であり、純資産価額方式で評価することは合理的である。

・AはZとの間で@150,000円で売買することを合意しているため、この金額売買価格とすべきである。

・買受を指定されたBは、Aから株式を譲り受けた後は、いつでも取締役会の承認を得て第三者へ高価で売却することが可能である。よって、譲渡制限がある非上場会社という理由で売買価格を減額することは合理的ではない。

旧FD社案件における、裁判所の見解

・旧FD社は保有する不動産を活用したストック型の事業を営んでおり、純資産価額方式を採用すること自体に合理性は認められるとは考えられる。

・しかし、旧FD社は設立以来、営業活動を継続しており、今後直ちに解散して清算するわけではないことから、清算を擬制にした純資産価額方式のみで公正な価格を決定することは合理的ではない。会社が今後も営業活動を継続することも想定して価格を決定すべきであり、収益還元方式を考慮して売買価格を検討することには合理性がある。

・売却を希望するAは、Bが株式を譲り受けた後に第三者へ高価で売却できるため譲渡制限があるという理由で売買価格を減額することは妥当ではないと主張している。しかし、Aが、譲渡制限のある非上場会社の状態で旧FD社の株式を売却するのであれば、譲渡制限のある状態での価値として評価すべきである。

・Aは、Zとの間で合意している@150,000円を売買価格とすべきと主張しているが、この金額を客観的に、また、合理的に裏付けとなる資料などは無い。従って、AとZで合意した金額を売買価格とするのは妥当ではない。

・業種や規模などから、旧FD社に類似した上場会社は無い。収益、配当、純資産等を比準して株式の価格を算定する類似業種比準方式を採用することは妥当ではない。

・旧FD社は利益配当を行っておらず、利益配当還元方式を採用することは妥当ではない。

・以上より、純資産価額方式を7割、収益還元方式を3割として併用したうえで、旧FD社が非上場で市場性が無く、かつ譲渡制限が付されているため3割を控除した金額を売買価格とすることが合理的と決定する。純資産価額方式によって資産から負債と税金負担分を控除して算定すれば@122,812円、収益還元方式によって年間利益額と利益率から算定すれば@926円となり、併用の割合と3割の控除より、@60,372円となる。

まとめ

会社の株式の価値が争点となった裁判例として、旧FD社案件についてご紹介しました。

この事案では、裁判所は、純資産価額方式と収益還元方式を併用し、非上場で市場性が無く譲渡制限が付されていることを考慮して3割を控除して評価額を算定しています。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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