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合理的な手法を選ぶには?株価算定の裁判例(旧KS社案件)

株価算定には多くの手法がありますが、一つの手法だけでは合理性に欠けるとして、複数の手法が用いられるケースもあります。非上場会社の場合、合理性を判断するためには、その争点や状況などの複数の要素をより細やかに検討する必要があります。今回は、株価算定が争点となった多くの裁判例の中から、旧KS社案件についてご紹介します。

旧KS社案件の概略

旧KS社は航空集配サービスを主たる目的とした非上場会社です。会社の経営は順調で増収増益が継続し、直近の売上高は約30億円、税引前利益約8千万円、利益の約15%を株主に対して配当を出していました。

旧KS社の役員で旧KS社の株式の10%を保有する株主Aは、株主A自身が保有する株式を第三者へ譲渡することについて旧KS社へ承認を請求しましたが、旧KS社は承認せずにBを買受人として指定しました。

売主側の株主Aは@7,735円又は@9,532円を主張し、買主側の旧KS社は@2,603円を主張しましたが、双方の協議では調整に至りませんでした。

旧商法204条ノ4に基づく価格決定の申立てを受け、平成3年9月26日に千葉地裁は、配当還元方式と時価純資産価額方式の平均値@5,066円を売買価格と決定しました。

旧KS社案件における、売主側の主張

・旧KS社は業績が順調であること、また、特に会社を解散することを想定しているわけではないことから、清算価値ではなく再調達時価に基づく純資産価額方式が合理的である。

・再調達時価に基づく純資産価額方式によれば、旧KS社の1株当たりの価額は@7,735円又は@9,532円と算定される。

旧KS社案件における、買主側の主張

・株式の買取価格は、純資産価額方式によるのが合理的である。

・純資産価額方式によれば、旧KS社の1株当たりの価額は@2,603円と算定される。

旧KS社案件における、裁判所の見解

・旧KS社は業績が堅調で利益配当率も安定しており、今後の業績見込みからみれば将来においても同水準の利益配当率を継続できる可能性が高い。よって、配当還元方式は合理的と考えらえる。ただし、本件で売却される株式が全体の10%に相当すること、株主Aは旧KS社の役員であり経営に参加していることを考慮すれば、配当だけを期待する一般投資家とは異なる面がある。配当還元方式は合理的ではあるが、配当還元方式だけで本件の売買代金とするのは適当ではない。

・株主Aは役員であるとしても保有しているのは10%にすぎず、経営を支配している状態ではないため、収益還元方式は合理的ではない。

・本件の買取価格の決定にあたっては、旧KS社の資産状態その他の状況をふまえて決定すべきであること、また、純資産価額方式は会社の客観的価値を算定する方法として合理性が認められる。なお、旧KS社は保有する不動産の簿価と時価の乖離が著しいことから、簿価純資産価額方式よりは時価純資産価額方式が望ましいと考えられる。旧KS社は事業の継続を前提としているため、会社の清算所得から法人税等相当を控除する残余財産分配額ではなく、全資産の市場価額による時価純資産価額方式が適当と考えられる。

・旧KS社は、業種としては陸上貨物運送業であるが、空港に関係する運送業を営んでいるという特殊な面があり、類似業種比準方式は合理的ではない。

・以上を総合的に勘案すれば、本件の買取価格は株主Aが請ける役員報酬をも配当金とみなしたうえで、配当還元法式による価額と純資産価額方式による価額を平均値とするのが相当である。

まとめ

会社の株式の価値が争点となった裁判例として、旧KS社案件についてご紹介しました。

この事案では、裁判所は、配当還元方式と時価純資産価額方式の平均値をもって評価額を算定しています。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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