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DCF法による株価算定の裁判例(旧K社案件)

株価算定の方法は、大きく分けてインカム・アプローチ、マーケット・アプローチ、ネットアセット・アプローチの3種類があります。今回は、インカム・アプローチの代表的な方法であるディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)を採用した裁判例として、旧K社案件を見てみましょう。

旧K社案件の概略

平成16年3月に旧K社は経営不振で産業再生機構の支援を受け、平成17年6月に上場を廃止。平成18年1月~3月にT社が旧K社の株式を産業再生機構から、更にTOBで既存株主から取得して83%保有の状態になりました。

平成18年4月、T社は旧K社の主要な事業を事業譲渡で分離しましたが、こうした事業譲渡に反対した少数株主が平成18年5月に株式買取請求権を行使し、会社に対して公正な価格で株式を買い取るよう請求しました。買取価格を当事者間で協議したものの、合意に至らず、裁判所に買取価格の決定を求めた事案です。

平成22年5月24日の東京高裁の判例によると、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)による評価が相当となりました。

平成17年6月に旧K社が上場廃止した時の最終取引価格は@360円、
平成18年1月にT社が産業再生機構から取得した価格は@201円、
平成18年2~3月のTOBで既存株主から取得した価格は@162円でした。

平成18年5月に事業譲渡に反対した少数株主からT社が提示した買取価格は@162円、
平成18年6月に少数株主が主張した買取価格は@1578円、
平成22年5月の東京高裁の決定は@360円でした。

旧K社案件における、ディスカウント・キャッシュ・フロー(DCF法)の採用

この判例で、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)による評価が相当とした理由は、下記の通りです。

・この案件では、継続企業としての価値の評価に適した評価方法として、評価対象会社から将来、期待できる経済的利益を現在価値に割り引いて評価する「インカム・アプローチ」が相当であり、その代表的な手法であるディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)を採用することが相当である。

・ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)とは、将来のフリー・キャッシュ・フローを見積もって年次ごとに割引率を用いて算定した現在価値を集計し、事業外資産を加算して負債の時価を減算して評価額を計算する方法であり、適している。

・評価対象会社は、事業再生に取り組んでおり、配当を行える状況にはなかったため、配当還元法やゴードンモデル方式を採用することは合理的ではない。

・評価対象会社は事業を継続することを前提とした上での評価という点から、企業の純資産に着目した純資産方式を採用することは合理的ではない。

旧K社案件における、ディスカウントについて

この判例では、マイノリティ・ディスカウントの適用、非流動性ディスカウントの適用、小規模リスクプレミアムの適用は認められませんでした。その理由は、下記の通りです。

・会社法上の株式買取請求権は、少数株主の経済的な損失を保護することを目的としており、本来株式を売却することを意図していないのに事業譲渡を余儀なくされているとこに着眼すべきである。

・マイノリティ・ディスカウントは、そもそも、支配していないことを理由としたディスカウントである。マイノリティ・ディスカウントには客観的な根拠があるわけではなく、売買当事者間での交渉における調整事項であることを考慮して、この事案では採用しない。

・非流動性ディスカウントは、市場価格が無いことを理由としたディスカウントである。この事案の評価対象は市場価格が無い非上場会社ではあるが、少数株主は本来株式を売却することを意図していなかったことを考慮し、進んで株式を売却することを前提とした非流動性ディスカウントは採用しない。

・小規模リスクプレミアムは、小規模な会社が大規模な会社と比較して経営の安定面や信用力でリスクが高いことを理由にしたディスカウントである。小規模リスクプレミアムには客観的な根拠があるわけではなく、売買当事者間での交渉における調整事項であることを考慮して、この事案では採用しない。

まとめ

会社の株式の価値が争点となった裁判例として、旧K社案件についてご紹介しました。

この事案では、継続企業の価値評価であること、少数株主の経済的損失を保護することなどを勘案し、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)を採用しました。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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