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約650億円の損失を招いた株価算定の裁判例(旧TH社案件) その3

株価算定が争点となった裁判例として、旧TH社案件をシリーズでご紹介しています。前回は、買い手側である旧TH社の主張とその背景、そして東京地裁の見解を詳しく解説しました。シリーズ最終回となる今回は、RT社の即時抗告を棄却した東京地裁の見解と、最高裁の見解について紹介します。

旧TH社案件における、東京高裁の見解

東京地裁の原審を不服としたRT社は、即時抗告を申し立てましたが、東京高裁は下記の通りRT社の抗告を棄却して、@1,294円で決定しました。東京地裁の原審とは異なった考え方ですが、結論は同額となりました。

・買取価格の基準日について、吸収分割の承認決議日とすることは、株主に買取請求権の行使にあたり投機の機会を与えることになってしまうので合理的ではない。

・買取価格の基準日は、買取請求期間の満了日の2009年3月31日が合理的である。

・買取価格の算定方法は、東京地裁の原審が採用した、買取基準日に近接した1ヵ月の株価の終値の加重平均値とすることには合理性はある。しかし、株価操作を目的とした不正な取引で株価が歪められるようなことが無ければ、買取価格の基準日の株価が公正な価格と考えられる。

・買取価格は、基準日の株価である@1,294円で決定する。

旧TH社案件における、最高裁の見解

東京高裁の原審をも不服としたRT社は、さらに即時抗告を申し立てましたが、最高裁は下記の通りRT社の抗告を棄却して、@1,294円で決定しました。東京地裁の原審、東京高裁の二審とは買取価格の基準日についての考え方は異なりますが、結論は同額となりました。

・反対株主が買取請求権を行使すれば、法律上はその反対株主と会社との間で株の売買契約のような法律関係が生じることになり、会社は公正な価格で株式を買い取らなければならなくなる。こうした法律関係が生じる時点を基準日とすべきと考えられるため、買取価格の基準日は、反対株主の買取請求権行使日の2009年3月31日とするのが合理的である。

・そもそも反対株主は、会社の承認を得なければ株式買取請求を撤回することができない。買取請求した日より後の日を買取価格の基準日とすれば、買取の請求をした後で株価が変動するリスクを反対株主が負担することになってしまうのは妥当ではない。

・買取価格は、基準日の株価である@1,294円で決定する。

まとめ

会社の株式の価値が争点となった裁判例として、旧TH社案件についてご紹介しました。

2005年10月のRT社による旧TH社の大量の株式の取得の公表から、2011年4月の最高裁の決定まで、約5年半かかりました。

RT社としては、旧TH社との経営統合は実現せず、旧TH社を支配する途が閉ざされたので、取得した旧TH社の株式を手放すことになりました。旧TH社の約3700万株につき、平均取得単価約@3,100円のところを@1,294円で売却し、結果的には約650億円の損失となりました。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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