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約650億円の損失を招いた株価算定の裁判例(旧TH社案件) その3株価算定の裁判例(旧TH社案件) その1

株価算定が争点となった裁判例は非常に多くありますが、それぞれの立場で複雑な思惑が絡んだケースとして、旧TH社案件があります。今回より、3回に分けて詳しい流れをシリーズでご紹介します。第1回目となる今回は、旧TH社案件の概略と、売り手側であるRT社側の主張とその背景について解説します。

旧TH社案件の概略

旧TH社は、1951年に設立され、1960年10月から上場している放送事業の会社です。

ITサービスを営むRT社は、2005年10月に旧TH社の株式の約15%を取得していることを公表し、その後も市場で旧TH社の株式を取得し、約19%を保有する状況に至りました。

RT社は、自社の事業の拡大と発展を目的として旧TH社へ経営統合を提案しましたが、旧TH社としては賛成しないまま、RT社が旧TH社の筆頭株主という状態が続きました。

旧TH社は、2008年12月に臨時株主総会を開き、旧TH社のテレビ放送免許を子会社の旧TBT社へ引継ぎ、旧TH社を認定放送持株会社へ移行する吸収分割を承認決議しました。

RT社はこうした旧TH社の吸収分割の承認決議に反対し、RT社が保有する全ての株式を旧TH社が買い取るように請求しました。

RT社が保有する旧TH社の株式の買取価格について双方で協議を進めましたが、RT社は平均取得価格@3100円より上回る価格を主張し、旧TH社は@1294円を主張し、整いませんでした。会社法786条2項に基づいて、東京地裁へ買取価格の決定を申し立てました。

2010年3月5日に、東京地裁は、旧TH社の買取価格を@1294円と決定しました。

RT社はこの東京地裁の決定を不服として即時抗告しましたが、2010年7月7日に、東京高裁は棄却しました。

更にRT社はこの東京高裁の決定を不服として即時抗告しましたが、2011年4月19日に、最高裁は棄却しました。

旧TH社案件における、売り手側RT社の主張とその背景

・ITサービスを営むRT社としては、テレビとインターネットを組み合わせることによって、自社の事業を発展させていきたいという思惑があったと考えられる。RT社からみた旧TH社の魅力は、テレビ局が持つ視聴者や接触した人数であるリーチにあると考えられる。

・2005年10月に旧TH社の株式の約15%を取得していることを公表した後に、旧TH社側からRT社に対し、買い増ししないように要請していた。しかし、RT社側としては、市場を通じて旧TH社の株式を買うこと自体に問題ないと主張しながら買い増して持株の比率を高めていった。

・RT社としては、敵対的買収で進めようというつもりではなく、旧TH社と双方でのメリットが出るような提案を通じて協議を進めたいという風に主張はしていた。

・RT社は旧TH社の約15%相当の約2938万株を約880億円で取得し、その後に約4%相当の約689万株を約230億円した結果、約3627万株を約1110億円で取得しており、平均取得単価は約@3100である。

・2008年12月の旧TH社の臨時株主総会の承認決議によって、旧TH社は認定放送持株会社となった。放送法52条の35の規定では、認定放送持株会社は特定の株主が会社の総議決権の3分の1以上を保有することが禁止されているため、RT社は旧TH社の経営権を支配することが断たれてしまった。RT社としては、結果的に不利益を受けたという風に主張した。

まとめ

会社の株式の価値が争点となった裁判例として、旧TH社案件についてご紹介しました。

RT社は事業拡大の手段としてM&Aを活用して旧TH社の株式を取得して旧TH社へ経営統合を提案したのですが、旧TH社からは受け入れられず最終鉄器には取得した全ての株式を手放すこととなりました。この事案には、株式の売り手と買い手の特有の双方の思惑や動きが複雑に絡んでいるところ、今回は株式の売り手側のRT社側の主張とその背景を中心に記載しました。次回以降では、株式の買い手側の旧TH社の主張とその背景の他に、裁判所の見解を記載します。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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