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株価算定事例 回収が困難な債権を保有する企業の評価

M&Aや事業承継、株価に関する裁判や係争問題、経営戦略の検討など、重要な場面で株価算定が行われることがあります。弊社がこれまでに裁判目的や同族間での株式譲渡取引などの株価算定の業務を受嘱し、株価算定書を作成・提出した中から事例をご紹介いたします。守秘義務等の関係で、固有名詞を伏せて要旨を簡潔に記載しますが、ご了承ください。

株価算定の業務の依頼の背景

対象の会社は、エネルギー関係の卸売りを行う非上場の商社です。

近年の業績は基本的には安定しておりますが、オーナー社長は対象の会社の株式をオーナー社長以外の親族又は第三者へ譲渡することを検討しており、仮に譲渡する場合の公正な株式の価値を算定してほしいということで、株価算定のご依頼を受けました。

対象会社の経営状況

対象会社の近年の業績としては、売上は概ね10億円前後で、経常利益は20~30百万円で推移しています。エネルギー関係の仕入価格の上昇があっても販売価格に転嫁できていることが、近年の業績が安定している要因です。ただし、安定しているとはいっても今後は引き続きエネルギーの価格を得意先へ転嫁できるかどうかは明確ではなく、今後の中長期の予測には不確実な部分があることは否めません。

なお、対象会社には回収が困難な多額の債権がある他に、役員及び従業員の退職金の多額の支給予定額があるのですが、貸借対照表には反映されておりません。対象会社の財務状態の実態としては、回収が困難な債権については帳簿上の資産から評価を減額し、退職金の引当不足額を負債として認識すべきと考えられます。すなわち、簿価純資産と時価純資産には相当の乖離が生じている状態です。

採択した評価方法と株価評価の結論

対象会社の中長期的な将来の経営環境には不確実な部分があるとはいえ、これまである程度安定した業績を継続してきたことを考えれば、今後3年から5年後のキャッシュ・フローの獲得見込分相当を考慮することは妥当です。よって、インカム・アプローチのうち、ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)で評価することは合理的と考えました。

また、対象会社の実態を把握するためには貸借対照表上の純資産を考慮すべきであり、特に、回収が困難な債権の評価の減額や退職金の引当不足額を調整し、ネットアセット・アプローチの時価純資産法で評価することは合理的と考えました。

なお、対象会社と、事業内容、企業規模、収益の状況等から類似した上場会社は無く、また、近年において対象会社の株式譲渡の取引事例もありません。よって、マーケット・アプローチを採用することは合理的ではありません。

以上をふまえ、今回の対象会社の場合は、インカム・アプローチのディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)とネットアセット・アプローチの時価純資産法を折衷して株価算定を行うべきと考えました。

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)と時価純資産法による評価と評価の結論

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)による評価

単年度キャッシュ・フローは、直近の税引後利益と減価償却費と設備投資の状況を勘案し、17百万円としました。

割引率は、対象会社の金融機関からの借入金の金利水準3.5%、実効税率35%より、2.3%としました。

ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)による対象会社の企業価値は、永続価値は無しとして、今後3年先までの約50百万円から5年先までの約80百万円と算定しました。

時価純資産法による評価

対象会社の決算書の査閲、オーナー社長へのインタビュー、提出を受けた資料の査閲を行った結果、直近の簿価純資産104百万円から、下記の事項を調整して時価純資産を算定しました。

・対象会社の長期貸付金98百万円は全額回収不能と見込まれるため、同額の貸倒引当金を設定することを考慮します。

・対象会社の役員及び従業員の退職金の支給見込額相当57百万円を、退職給付引当金として設定することを考慮します。

・商品在庫の中に不良在庫が5百万円ふくまれている他、評価を減額すべき資産として回収不能な未収入金や電話加入権など4百万円があり、資産の評価減として9百万円を設定することを考慮します。

以上より、対象会社の時価純資産は、簿価純資産104百万円から約164百万円を減額した約60百万円の債務超過と算定しました。

折衷法による評価の結論

ディスカウント キャッシュ・フロー法(DCF法)による評価額では約50百万円から約80百万円、時価純資産法による評価額では約60百万円の債務超過となり、仮に両者の評価法のウェイト付けを同等とすれば対象会社の評価額を0~20百万円となります。

本件の定性的な状況として、対象会社が実質債務超過の状態にあり、今後当面の間にいくら業績が順調に推移するとしても、実質債務超過の状態を解消できるのは早くても概ね4~5年先と見込まれることは考慮すべきと考えました。短期間での債務超過解消の目途が立たない状態で、既存株主による過去の払込額を上回る評価額となることは妥当ではなく、出資時点での払込額である資本金11百万円を超えた金額とするのは過大な評価と考えました。

以上より、対象会社の企業価値は、0~11百万円と算定しました。

対象会社の一株当たり評価額は、上記の企業価値を会社の発行済株式総数22,000株で除した、0~500円と算定しました。

まとめ

今回の案件では、回収が困難な債権を保有する企業の株価算定の事例をご紹介しました。本件の場合は、今後3~5年のキャッシュ・フロー獲得分を考慮したディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)が合理的であり、また、資産の評価減や負債の計上を織り込んだ時価純資産で評価することも合理的なため、折衷法で株価算定を行いました。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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