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約650億円の損失を招いた株価算定の裁判例(旧TH社案件) その2

株価算定が争点となった裁判例の中から、旧TH社案件を取り上げ、シリーズでご紹介しています。前回は、案件の概略と、売り手側であるRT社の主張とその背景を解説しました。第2回目となる今回は、買い手側である旧TH社の主張とその背景、東京地裁の見解についてです。

旧TH社案件における、買い手側旧TH社の主張とその背景

・旧TH社は、2005年6月に、買収防衛策として、NPI社に対して大量の新株予約権を発行していた。買収者の株式保有比率が20%を超えた場合に、NPI社へ新株予約権を割り当てることとして、買収者の株式保有比率を下げることを目的としたものである。

・2005年10月にRT社が旧TH社の株式の約15%を取得して筆頭株主となった。ここで、RT社は旧TH社に対して経営統合を申し入れたが、旧TH社は反発した。経営統合について話し合う条件として、これ以上旧TH社の株式を買い増ししないことをRT社へ要請した。しかし、RT社は買い増しして約19%まで保有比率を高めたことで、旧TH社は更に反発し、対立感が強まった。2005年11月の時点でRT社側が経営統合の提案を取り下げてたが、RT社が筆頭株主の状態はその後もしばらく継続した。

・2008年12月に旧TH社は臨時総会を開き、旧TH社のテレビ放送免許を子会社の旧TBT社へ引継ぎ、旧TH社を認定放送持株会社へ移行する吸収分割を承認決議した。この決議を受けて、2009年4月1日に、旧TH社は放送法上の認定持株会社へ移行することが認められた。認定持株会社では特定の者が3分の1以上の議決権比率を保有することが放送法で禁じられているため、RT社が旧TH社の議決権の3分の1以上を保有して支配する途が閉ざされた。

・旧TH社は、RT社から買い取る株価は、株式買取請求権の行使時点の2009年3月31日を基準日として、@1.294円と主張した。

旧TH社案件における、東京地裁の見解

・本件のように、100%の株式を保有して完全に支配する子会社へ資産を移転するような吸収分割においては、この吸収分割自体で企業価値を毀損することなく、また、シナジー効果が生じることもない。

・買取価格の基準日について、RT社は吸収分割の承認決議日の2008年12月16日を主張し、旧TH社は株式買取請求権の行使日の2009年3月31日を主張している。しかし、東京地裁の見解としては、吸収分割の効力発生日の2009年4月1日が合理的である。

・買取価格の算定方法としては、基準日に近接した1ヵ月の株価の終値の加重平均値とすべきであり、算定結果としては@1,255円となる。しかし、これは旧TH社の主張する@1,294円を下回ってしまうことから、@1,294円で決定する。

まとめ

会社の株式の価値が争点となった裁判例として、旧TH社案件についてご紹介しました。

RT社は事業拡大の手段としてM&Aを活用して旧TH社の株式を取得して旧TH社へ経営統合を提案したのですが、旧TH社からは受け入れられずに最終的には取得した全ての株式を手放すこととなりました。

前回は、売り手側の主張する買取価格とその背景を中心に記載しました。今回は、買い手側の主張する買取価格とその背景、東京地裁の見解を記載しました。本件は、ここで終わらず、東京高裁から最高裁案まで進みましたので、次回にご紹介します。

株価算定は複雑で専門性が高いので、疑問点などございましたら弊社までご相談ください。

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